※この文章に出てくる警察幹部=警視庁・道府県警察の警察官採用試験に合格して警察官になり
昇任試験を経て巡査部長→警部補→警部と出世して警察幹部になった者(つまり警察庁採用のキャリア組の話ではない)

pelikan
5つ星のうち5.0
警察の利権構造の闇
2013年8月17日に日本でレビュー済み

昨年頃から、食品流通業界辺りからおかしな噂が流れてくるようになった。
ある小説本をターゲットに徹底的に潰してしまえという動きがあり、
特にAmazonにおけるレビューで完膚なきまで叩けとの指示が出ているという。
その小説こそが、この「震える牛」だということが解り、
改めてAmazonのレビューを見た。

その内容は「ミステリーとしては駄作」とか「何が平成版の砂の器だ」というような
誹謗中傷レビューに「参考になった」票が大量に投票されている。
食品流通業界を総動員した組織票の数がこの位は集まるものだということがよく解った。
これだけの反応を見ても、この作品が食品流通業界に与える影響が極めて大きいらしく、
敏感に反応していることが解り面白い。
価格.comのサイトでも新製品が出る度に各ライバル会社の担当者がよってたかって
ボロクソなコメントを書き込む中傷合戦の場だということはあまりにも有名な話だ。

それはさて置き、相場英雄氏の徹底した取材力は相当なものである。
これは、かつての麻生幾氏のノンフィクション公安小説「ZERO」を彷彿とさせる
久々の力作であり、一気に読み上げてしまった。
その取材で得られた食品流通業界の闇を暴く小説を敢えてノンフィクションとせずに
フィクションとしたのは賢明で、
ノンフィクションでは命がいくつあっても足りないことだろう。

食品偽装の手法については、これまで、食品関係者から裏の裏まで聞いてきたので、
別段、驚くことはないが、この小説内で書かれている食品偽装の手法は
まさに現実どおりの内容である。
むしろ、この小説で注目すべきことは、企業、出先機関、公益法人・団体への
警察OBの天下りと現役警察との一体となった利権構造に触れていることだろう。

この小説でも天下り先の一つとして防犯協会が登場しているが、
企業からは公益財団法人全国防犯協会連合会に正会員94団体、特別会員7団体、
賛助会員40団体が加盟し会費や賛助費として多額の寄付がされているし、
地域毎の防犯協会も各警察署内に本部を置き、
地域企業や自治会からも会費を徴収しているが、
もちろん、これらの収益は天下った警察OBの給与となっており、
大規模スーパーを始めとする企業は大事なお得意さんであり、
大口寄附会社には情報提供等の最大限の便宜供与が図られている。

また、全国の一般財団法人日本交通安全協会、
地域交通安全協会も警察OBの天下り先であり、
運転免許証の更新時講習を県警から委託費用が支払われているが、
この委託業務は競争入札ではなく、随意契約で行われ独占してきている。
さらに、免許証更新時に任意加入であるにもかかわらず、
あたかも義務であるかのように会費を徴収する行為が多々あり問題視されている。
これらの収入の大部分が警察OBの理事、監事の給与、手当、退職金に充てられている。
さらに、警察OBでも幹部クラスは大手警備会社の取締役や
大規模スーパーの監査役の天下りポストのレールが敷設されており、
転々と渡り歩き多額の退職金を手にしている。
北海道警のノンキャリOBが道内の警備会社、大手スーパーの役員を渡り歩き、
莫大な収入を得た後、瑞宝小綬章まで受章した強者もいる。
この小説はタブーとされる警察の利権構造にまで光を当てており
高く評価されるところである。