日刊ゲンダイ2022/01/20 06:00
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/300153
東大刺傷事件は他人事にあらず…成績不振の受験生への「NGワード」

ドキッとした親も多いはずだ。大学入学共通テストの受験生ら3人が、会場の東大前で刺された事件である。

殺人未遂容疑で現行犯逮捕された名古屋市の私立高2年の少年(17)は市内でも有数の進学校で東大医学部を目指していたが、1年前から成績不振に悩み、周到に準備して凶行に及んだとみられている。

少年は「医者になれないなら人を殺して罪悪感を背負って切腹しようと考えた」などと供述したという。

ヘルマン・ヘッセの小説「車輪の下」じゃないが、周囲の期待を一身に背負った優秀な少年が、実は井の中の蛙で、挫折を味わい、自暴自棄になるケースは100年以上前からある。とはいえ、受験生を抱える親は気が気じゃないだろう。

「これは一般論ですが、成績が下がったからといって〈頑張れ〉〈あなたならできる〉と励ましてはいけないのはもちろんのこと、〈無理しなくてもいい〉と優しい言葉をかけるのもよくない」と明大講師の関修氏(心理学)はこう続ける。

「幼い頃から優秀で、周囲から〈できる〉と思われてきた子ほどプライドもあって、困った時に親や友人に悩みを相談できないものです。誰にも何も言えずにひとりで抱え込んで、自分の中で悶々と悩んで視野が狭まり、誤った方向に暴走してしまうことがあります」

 なぜ優しい言葉もダメなのかといえば、逆にそれがプレッシャーになることもあるからだ。悩みがあっても〈親に申し訳ない〉〈期待に応えなければ〉と萎縮し、言いたいことが言えなくなってしまいがちだという。

「優しい言葉をかけたい親心は理解できますが、それが悩みを吐き出したい子供の気持ちを妨げる恐れもある。大事なのはどうアドバイスするかではなく、親の“聞く力”です。たとえ子供に煙たがられても、常日頃から繰り返し〈何かあったら話してほしい〉と“聞く耳”を持っていることを伝え、子供が言いたいことが言える環境をつくっておくことです」

 今回の17歳少年はどうか分からないが、悩みを打ち明けられる環境さえあれば、「切腹」を考えるほど思い詰めることはなかったんじゃないか。“心の刃”を外に向けてからでは遅い。