読売新聞2022/01/21 09:02
https://www.yomiuri.co.jp/economy/20220120-OYT1T50344/

【バンコク=山村英隆】東南アジアで広がっていた日本の中古鉄道車両を輸入する動きが、変化している。各国の経済成長に伴い、中古を嫌って新車を導入する例が目立ち始めた。鉄道会社の廃車費用が膨らむ懸念がある一方で、車両メーカーにとって大きな商機の到来といえそうだ。

JR北海道で使われていた中古気動車とタイ国鉄の職員ら(21年12月、タイ中部レムチャバン港で)=山村英隆撮影

昨年12月上旬、タイの港にJR北海道の中古気動車が到着した。特急「オホーツク」としても使われた特徴的な「顔」は、日本のファンに愛されてきた。タイ国鉄は観光列車として改造、使用する予定という。

地元紙バンコク・ポストによると、譲渡された計17両にかかる輸送費など約4250万バーツ(約1億4700万円)は、タイ側の負担となった。

これに現地で賛否両論が巻き起こった。賛成派は、中古でも高品質に保たれた日本製車両への期待を示す。一方で、製造から40年近い車両の導入にコストがかかり過ぎているとの意見が続出。インターネットでは「金属くず」と表現された。

中古車両を巡る同様の状況は他国でも起きている。ベトナムでは、JR東日本の気動車37両を輸入する鉄道公社の計画について、政府が11月末に「基準を超える古さ」を理由に反対を表明したという。現地のメディアが報じた。

東南アジア各国では、2000年頃から日本の中古車両が活躍の場を広げてきた。JR東日本はインドネシアに13〜20年に800両超を譲渡した。ミャンマーやタイ、フィリピンなどでも各鉄道会社からの譲渡の例がある。コロナ禍前は、日本から現地を訪れる鉄道ファンも多かった。

近年は中古への風当たりが強まっている。経済成長で新車を導入する余裕が生じたという背景がある。

車両の保守、管理を巡る問題も新車傾向を後押しする。東南アジアの鉄道に詳しいアジア経済研究所の川村晃一氏は「鉄道車両はオーダーメイドに近く、中古だと部品の取り寄せに手間がかかる。新車ならメーカーの保証が手厚い」と指摘する。一部の国では保守が行き届かずに放置された中古もあるという。

日本製車両の「第二の母国」である東南アジアで脱中古が加速すれば、日本の鉄道会社にコストの増加をもたらしかねない。在来線の車両1両あたりの廃車費用は「平均200万〜300万円程度」(大手鉄道会社)という。大量の廃車は、コロナ禍による業績悪化に追い打ちをかけてしまう。

ただ、こうした状況は、車両の作り手であるメーカーにとって新たな商機になりうる。新車需要を見込んだ日本や欧米、中国のメーカーによる競争は始まっている。

16年開業のタイ・バンコクの都市鉄道「パープルライン」は、JR東日本傘下の総合車両製作所の新車を導入。同製作所は昨年10月、フィリピン・マニラの都市鉄道向けの出荷を始めた。日立製作所やJR東海傘下の日本車両製造なども、各国で新車が採用された。川村氏は「中古車両の活躍の場は、在来線をはじめ一部路線にとどまるだろう」と述べ、新車との代替わりが進むとの見方を示した。