政府が約8千万枚の在庫を保有している布製の「アベノマスク」を巡り、安倍晋三元首相は「2億8千万枚の配布希望があった」と胸を張った。ただ、配布を申し込む時に、実際に必要とする枚数よりも多い枚数が自動的に申請されるケースもあったことなどが、配布希望を押し上げる方向に作用した可能性がある。 (前田倫之)

 安倍氏の発言があったのは27日昼のこと。応募締め切りは、翌28日に迫っていた。新型コロナウイルス対策として登場した布製マスクだが、家の防災備蓄用に活用させてもらおうと27日夜、厚生労働省のホームページから配布を申請した。

 応募できるのは「介護施設等」「自治体」「個人」となっている。氏名、住所、電話番号などを打ち込み、「必要枚数」の欄に来ると「100枚単位でご記載ください」との記載が。「個人」なので、そんなに大量のマスクが届くと困る。駄目元で「10枚」と入れてみると、あっさり受理された。

 結果として、手元には10枚が届くのか、それとも100枚か。28日朝に厚労省に問い合わせると、担当者は「まだ締め切り前なので分からない」。安倍氏の言う「2億8千万枚」が、具体的にどういう数字を指しているのかも把握していないという。

 昨年12月24日、厚労省が布製マスク配布の募集を始めた直後に同じ申請ページを確認した時は、現状とは異なり、「必要枚数」と「送付枚数」という二つの記入欄が存在した。エクセルを活用する方式で、例えば必要枚数欄に「10枚」「110枚」「210枚」と打ち込むと、送付枚数欄はそれぞれ「100枚」「200枚」「300枚」と100枚単位で繰り上がって自動変換され、表示される仕組みになっていたのだ。注文の単位を大きくすることで、在庫を1枚でも多く減らしたい−。厚労省のそんな意図を感じざるを得なかった。

 その後、希望者が相次いだとして1月14日までだった募集期間が延長された際、申請ページは一新され、記入欄も「必要枚数」に一本化された経緯がある。

 布製マスクは2020年、首相だった安倍氏が全世帯配布を表明したものの、大量の在庫を抱える結果に。年間6億円の保管費を要していると指摘され、岸田文雄首相が出した判断が、希望者に配布した上での処分だった。

 不織布マスクに比べると感染防御効果は劣るが、厚労省は布製マスクを不織布マスクの下に重ねて着用すれば肌荒れしにくいなど、「幅広い用途がある」としている。申請があった全体の必要枚数や希望者の内訳について、担当者は「いつ、どこまで公表するかも決まっていない」と話す。

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