昨年4月、国会の院内集会でこども基本法の必要性を訴える子どもたち=東京都千代田区で
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 児童虐待やいじめ、貧困、ブラック校則など子どもを取り巻く環境が悪化しているのを受け、教育関係者らが制定を強く求めている「こども基本法」をめぐり、自民党保守派が「マルクス主義思想」「左派的」などと異論を唱え、議員立法の動きに待ったがかかっている。本来は、日本も批准している子どもの権利条約に沿った国内法整備の一環のはずだが、保守派はなぜこんな異論を唱えるのか。(特報部・荒井六貴、木原育子)

◆家族を否定するような行き過ぎた思想…

「マルクス主義の中には、個人主義を重視しすぎ、家族を否定するような行き過ぎた思想が一部にある。そういうものが入ってくる可能性があり、日本の伝統的な家族観が破壊されかねない懸念がある」

 「こども基本法」について、自民党の城内実衆院議員は21日、特報部の取材にそう答えた。

 城内氏は同党が4日に開いた「『こども・若者』輝く未来実現会議」に出席し、異論を唱えたと報道されていたため、発言の真意を確認した。城内氏によると、その前の発言者が「基本法はいらない。マルクス主義の巣窟になる」と話したため、それを「マイルドにした」という。「子どもの人権を否定するわけではない。慎重にやるべきだ」と説明する。

 一方、会合では元拉致問題担当相の山谷えり子参院議員も「左派の考え方だ。恣意的運用や暴走の心配があり、誤った子ども中心主義にならないか」と発言したと報じられた。特報部は山谷氏の事務所にも取材を申し込んだが、多忙を理由に回答を得られなかった。

◆法制化の柱は第三者機関「こどもコミッショナー」の創設

(中略)

 一方、政府は今国会で、こども関連施策の司令塔になる「こども家庭庁」を設置するための法案成立を目指す。こども基本法との整合性はどうなるのか。

 日本財団公益事業部の高橋恵里子部長は「法の理念を政策で実現する本部になることが、こども家庭庁に期待される。コミッショナーは庁から独立した組織で目に届かない政策を提言できる」と紹介する。

 だが、法案制定を進める山田太郎参院議員(自民)によれば、保守系議員らが特に問題視するのがこのコミッショナー制度で、山田氏らは創設具体化は先送りし、検討事項に盛り込みたいとしているが、それでさえ抵抗もあるという。「例えば、北海道・旭川のいじめ事件のように学校の対処が失敗し、被害者側と利害関係になった時や、教育委員会が機能不全になった時に、コミッショナーが関与できる。子どもにとって最後の砦。保守派には、子どもの権利をうたうだけで反対する人もいる。子どものわがままを聞くと誤解されるが、命を守るためのものだ」と訴える。

◆何か陰謀論に近いような議論…子どもの視点からはずれている

 こうした自民党保守派の反対論に対し、「困惑したとしか言いようがない」と苦笑するのは日本大学文理学部の末冨芳教授(教育行政学)。「これから何重もの議論が必要なことでもあり、一体何を懸念しているのか」

 末冨さんら有識者や市民団体らは18日、危機感を持ち、こども基本法の実現を求め、急きょ記者会見を開いた。「マルクス主義とか左派的とか…。何か陰謀論に近いような議論もあって、子どもの視点からはずれている。こどもコミッショナーは一足飛びではいかない課題で、ここから丁寧な議論が必要になる。根幹に関わる大事な時に、右か左かの議論ではないはず」

 末冨さんとともに会見した「日本若者協議会」の室橋祐貴代表理事(33)も「左派的って何なのか。よくわからない表現。コミッショナー制度は欧州を中心に多くの国ですでに進められている。もしその『左派的』というのが問題なら、世界ですでに課題となっているはずだが、聞いたことがない」と話す。

(中略)

 むしろ遅すぎる「こども基本法」なのだが、自民党保守派はなぜ反対なのか。

 政治ジャーナリストの角谷浩一さんは「子どもたちにすくすく育ってもらうことに、本来イデオロギーなんてない。マルクス主義という言葉の意味を本当にわかっているのか」と話す。2001年12月に敬宮愛子さまが生まれた際、お祝いの意を表する「賀詞」を共産党を含めた全会一致で議決したことを挙げ、「それが原点ではないのか。保守派の自民党が明治日本的な『イエ』制度にこだわり、反共思想を打ち出し、保守層の支持を集めようということなら、とんでもない話だ」と指摘した。(続きはソース)

東京新聞 2022年2月22日 17時00分
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