ロシア軍が撤収した後のウクライナ北部のブチャなどで、400人を超す民間人の遺体が見つかった。ブチャで何が起きたのか。

 ロシア兵は道路脇に5人の住民男性をひざまずかせ、男性たちが着ていたTシャツの裾を背中から引き上げて頭にかぶせた。目隠しのような状態にした上で、1人の後頭部を銃で撃った。男性はその場に崩れた。近くにいた女性が悲鳴を上げた――。

 人権侵害の告発で評価が高い国際NGO「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」(HRW)が、ロシア軍に支配されていたキーウ(キエフ)州などの住民から聞き取り調査を実施し、4月3日に発表したリポートの一部だ。ブチャであったという露軍による処刑の様子を、目撃していた女性が証言した。

 3月4日のことだった。この女性によると、小さな広場に自分を含む約40人の住民が露軍によって強制的に集められた。ロシア兵は一人一人から携帯電話を取り上げ、市民で作る「地域防衛隊」のメンバーが誰かを尋ねたという。「敵探し」が狙いだったようだ。

 5人の男性が広場に引っ張られてきた。1人が処刑された後も、残り4人は道端にひざまずいていた。露軍の司令官は広場にいた住民にこう言ったという。「心配するな。お前らはみな普通だ。そしてこいつ(処刑された男性)は泥だ。我々は、お前らを泥から洗ってやるために来たのだ」

 繰り返されるレイプ、集団処刑、暴力、脅し、略奪――。具体的な証言をHRWは集め、リポートにまとめた。「露軍による明らかな戦争犯罪」が浮かび上がったと結論付けた。

 HRWの調査は3月14日までの出来事だ。しかし、ブチャの悲惨な状態が明らかになったのは、露軍撤収後の4月に入ってからだ。倒れた自転車の横に仰向けに倒れたまま硬直した男性や、通りのあちこちに散らばる男女の遺体――。安全となったブチャに入った米紙ニューヨーク・タイムズなどの記者たちは、おぞましい光景を写真とともに伝えた。

 AFP通信は、町の中心部の教会の裏に「集団埋葬地」があったと報じた。遺体を埋める細長い土坑が掘られていた。そこには、埋葬されていない遺体や、土の中から一部が見えた遺体約10体が確認できたという。遺体は、黒い袋に入れられたり、着の身着のままだったりした。現地を訪れた米CNNは、少なくとも150人が埋葬されたとする地元警察当局や住民の証言を伝えた。

 米宇宙開発企業「マクサー・テクノロジーズ」が3月31日に撮影し、4月3日に公表した衛星画像によると、…(以下有料版で, 残り2118文字)

毎日新聞 2022/4/4 20:14(最終更新 4/5 06:28) 有料記事 3142文字
https://mainichi.jp/articles/20220404/k00/00m/030/210000c