プレジデントオンライン2023/01/19 15:00 肥田 美佐子ニューヨーク在住ジャーナリスト
https://president.jp/articles/-/65404

「稼ぐ」というタスクは男性だけのものではない
――日本では依然として、一家の主要な稼ぎ手は男性です。時代が変わっても、男性には、「お金を稼がなければ」というプレッシャーがのしかかっています。一方で、家族を養うだけの収入を得られない男性も増えています。日本の男性がそうしたジェンダー的プレッシャーから逃れるには、どうすればいいのでしょうか。

非常に難しい問題だけに、多面的なアプローチが必要です。まず、男性が1人で家計を支えなくてもいいという考え方を受け入れてくれるパートナーを探す必要があります。稼ぐというタスクを共有してくれるパートナーです。

次に、企業の役割も大切です。男性の重荷を取り除くには、企業が、男性も女性も同じように家計を支えることができるんだ、というメッセージを発する必要があります。

そもそも、1人の収入で家計をまかなえるような社会を有しているのは、一部の資本主義経済の国々にすぎません。もはや家計を単独で支えられる時代ではなく、それをパートナーに強いたりパートナーから強いられたりすべきではない、と認識する必要があります。

つまり、生活費を稼ぐことは両者が負うべき責任であり、ひいては他の世帯員も共有すべきことだという理解が必要です。そうすれば、(家事や育児など)仕事以外の世界で共有することも増え、男性も女性も自由を手にできます。

「男性の特権」を手放す
ただし、そのトレードオフ(二律背反)として、男性としての特権をいくらか手放す必要があります。例えば、日本は、家事や育児を手伝う男性が非常に少ないという意味で、とても珍しい国です。近所付き合いや子供の親との交流に関わる機会も非常に少ないですよね。北欧はもちろん、欧州の中では保守的なイタリアやドイツでさえ、はるかに日本の上を行っています。

男性は、家事の分担がパートナーの負担を軽くするだけでなく、家事に携わる時間をつくることで、自分自身の生活にもバランスが生まれることを認識すべきです。

「文化」は変革を拒む言い訳にすぎない
――日本には、収入格差をはじめ、多くの点で、今も大きな男女格差が残っています。

日本に根強く残る男女格差の背景には、日本の政府や企業が、社会の規範となるようなルールの変革を実現していないという事情もあります。男性が自ら権力を手放すことなど至難の業です。仮に彼らが望んだとしても、自然に実現できるようなことではありません。

このままでは、日本の男性は多くの点で(プレッシャーから逃れられず)苦労し続けることになるでしょう。

――欧米は、どのように男女格差を埋めてきたのでしょう? 日本では、男女格差の解消がなぜ遅れているのだと思いますか。日本文化が阻害要因になっているのでしょうか。

「文化」は、変革を拒むための言い訳として使われるのが常です。例えば、女性を採用しない言い訳として、「女性は家で子育てに専念したいものだ」「女性は主婦になりたいものだ」といった理由を挙げる男性上司もいるでしょう。

企業における男女格差を解消するための法制化が重要なのは言うまでもありませんが、日本では往々にして、法改正や法制化には至らない「合意」や「取り決め」の下で物事が進むようにみえます。そうしたやり方では、「多様性」など、ひと筋縄では実現できない社会変革を起こすことはできません。

日本の政界が好例です。女性議員を増やすべきだというプレッシャーが高まっているにもかかわらず、ほとんど変わっていません。これは驚くべきことです。

注:世界の国々の一院制、または二院制の下院に占める女性議員の割合を月ごとにランク付けした「列国議会同盟(IPU)」(本部スイス・ジュネーブ)のリストによると、2022年12月時点での日本の下院(衆議院)における女性議員の割合9.9%は、186位中164位。トップはルワンダの61.3%。フリューシュトゥック教授の祖国、オーストリアは25位で41%。英国45位34.6%、米国は69位の28.7%。

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