岸田文雄首相は23日、衆参両院本会議で所信表明演説に臨み、物価高対策の一環として、増えた税収の一部を所得税減税を念頭に一時的に国民に還元するとともに、低所得者向けの給付を拡充する方針を示した。既に与党に検討を指示しているが、昨年末に防衛増税を決めながら突然減税を打ち出したことには、野党からは「選挙目当てであざとい」「場当たり的」との批判も。仮に減税が決まっても実施は来春以降となり、家計負担が軽くなる日は見えない。(佐藤裕介、近藤統義)
◆補選の投開票直前に「所得税減税検討」
 「税収の増収分の一部を適正に還元し、物価高による国民の負担を緩和する」。首相は演説でそう表明した。首相が税収増加分の還元方針を最初に示したのは、9月下旬。10月には自民、公明両党の幹部が「所得税の減税も検討対象になる」などと呼応した。
 衆参2補選の投開票を2日後に控えた20日には、官邸に両党の税調幹部らを呼び、「国民への還元の具体策について、所得税減税も含め党における検討を指示した」と説明。初めて所得税減税に言及した。
◆減税には「ここ1カ月、財務省の抵抗が」
 首相は昨年末、5年間で43兆円という巨額の防衛費と、その財源となる1兆円規模の防衛増税を決定。今年1月の施政方針演説では「将来世代に先送りすることなく、今を生きるわれわれが将来世代への責任として対応していく」と、増税への理解を求めた。その首相が今度は「減税」と言い始めたことで、政府与党内には戸惑いが広がった。
 自民党内では「所得税減税は過去にも実施したことがあり、検証結果を見ながらだ」(森山裕総務会長)、「物価高支援なら減税より給付が公平。(首相は)『増税メガネ』と言われることに過剰反応している」(遠藤利明前総務会長)と慎重論が相次いだ。政府内でも「ここ1カ月、財務省の抵抗があった」(官邸幹部)。こうした状況の中、所信表明では直接的には「所得税減税」を盛り込まず、「還元」という言葉で配慮した形だ。
◆実施は早くても来春、即効性には疑問符
 物価高対策としての所得税減税には、即効性の面でも与党内から疑問の声が上がる。来年の通常国会での法改正が必要になるため、実施は早くても来春以降。そもそも所得税を課税されない低所得者には恩恵もない。首相は、低所得者世帯に3万円程度給付している交付金の拡充を経済対策に盛り込む考えを明らかにしたが、規模や期間は示さなかった。
 首相が減税方針を打ち出す一方で、年末に向け防衛増税の実施時期や、少子化対策の社会保険料を念頭にした財源確保の議論も始まる。首相は防衛増税の実施時期について、「景気や賃上げ動向に対する政府対応を踏まえて判断する」として明言を避けたものの、増税と減税をともに掲げることに、野党からは「ちぐはぐだ」(立憲民主党の岡田克也幹事長)との指摘が出ている。
 防衛増税 「防衛力の抜本的な強化」に必要な財源を捻出するための法人、所得、たばこ3税の増税。政府は2027年度に年1兆円強を確保する方針。法人税は4~4.5%の新たな付加税を課す。所得税は税率を1%上乗せした上で、所得税に付加される復興所得税の税率は1%引き下げて課税期間を延長。たばこ税は1本当たり3円引き上げる。実施時期は「24年以降の適切な時期」としていたが、6月に閣議決定した経済財政運営の指針「骨太方針」では「25年以降のしかるべき時期とすることも可能となるよう柔軟に判断する」と明記し、先送りを示唆した。

東京新聞 2023年10月23日 21時40分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/285543