全国的に人がクマに襲われる被害が相次ぐ中、今年6月にツキノワグマに引っかかれて右目を失明した島根県邑南町宇都井の70代男性が、山陰中央新報社の取材に応じ「ものすごい速さと力だった。かまれないよう必死だった」と恐怖の瞬間を振り返った。

 男性は6月16日午前5時に自宅裏の畑で野菜を収穫していた。宇都井地区は山あいに民家が立ち並ぶ地域で、畑の先にやぶが生い茂る山がある。

 コツンコツン−。何かをたたくような小さな音がした。「鳥だろうか」。耳を澄まし音の出どころを探ると、やぶの中からだった。やぶまで2〜3メートルの距離に近づき、音の原因を確かめようとすると突如、大きさ1メートルほどの黒い物体が飛び出し覆いかぶさってきた。

 目の前に牙が生えた大きな口を広げていた。「クマだ」。自分の頭が強い力で引き寄せられた。「かまれたらおしまいだ」と必死で押し返した。頭部や腕、脇腹をひっかかれながらも、クマが離れた隙に自宅に逃げ込んだ。右目に大けがを負っていた。

 男性は10日間入院し右目の摘出手術を受けた。地元の猟友会会員でもあるが、利き目を失ったために猟銃は使えず、銃砲所持許可証を返納した。日常生活でも距離感や段差が分かりにくく支障を来している。

 「まさかクマだとは思わなかった。今でも畑仕事が怖い時がある」と脳裏に焼き付いた恐怖を語る。

 「クマを駆除するな」という意見もあるが、男性は襲われて失明。県外では命を落とした人もいる。「被害がある地域の実情を知ってほしい」と訴えた。

10/29(日) 17:30 山陰中央新報
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