「物価上昇で豊かに」そんなことはない 白川元日銀総裁・講演詳報

「内外の金融経済情勢について思うこと」と題して講演する元日銀総裁の白川方明さん=北九州市小倉北区のリーガロイヤルホテル小倉で2023年11月8日、上入来尚撮影
 元日本銀行総裁で北九州市出身の白川方明(まさあき)さん(74)が8日、同市小倉北区で開かれた第60回「毎日・北九州フォーラム」(北九州地域懇話会、毎日新聞社主催)で「内外の金融経済情勢について思うこと」と題して講演し、人口減少などの問題を抱える日本の将来と解決への展望を語った。【石田宗久】

悲観的材料に事欠かない
 小倉の生まれで、先ほども高校時代の同級生と昼食を一緒にしたが、故郷に帰ると本当にいいなあと深く思う。

 内外の金融経済情勢について思うことを話したい。まず日本経済の現実だが、非常に悲観的な材料には事欠かない。まず成長率が低迷している。工場や機械施設、労働が目いっぱいに稼働した時にどれぐらい経済が成長するかの潜在成長率は、日本銀行の推計によると徐々に下がっている。最近は0%台半ばで非常に気がかりな動きだ。

 では、人口1人当たりのGDP(国内総生産)、所得はどうだろうか。OECD(経済協力開発機構)に加盟している先進国の中で日本の順位は2012年の段階では10位だったが、最近は20位に下がっている。アジアの近隣諸国との比較で24年の予測は3万4555ドル。日本円で約510万円だが、台湾は3万4036ドル、韓国は3万4653ドル。いまや日本はアジアで断トツに所得水準が高い国ではなく、同水準か場合によっては追い抜かれている。シンガポールは9万1728ドル、アメリカは8万3063ドル。バブルの頃は日本の1人当たり所得はアメリカを上回り、20年前でもそれほど差はなかった。日本の地位は相当に下がり、円の購買力も非常に下落した。

 円の購買力を分かりやすく実感するのが、例えばマクドナルドのハンバーガーの値段。日本で買うと419円。円の為替レートで換算すると、一番高いスイスは944円。スイスに行っても1個は買えない。円の購買力を示す実質為替レートは、過去50年来の円安水準まで下がっている。スポーツの世界で日本人の活躍が目立つが、このように経済や社会は暗い材料が多い。

「閉塞感」の二つの理由
 この閉塞(へいそく)感の根本的な原因は何なのか。二つの理由が…(以下有料版で,残り4179文字)

毎日新聞 2023/11/21 18:21(最終更新 11/21 20:14)
https://mainichi.jp/articles/20231121/k00/00m/020/230000c