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うつ病や不安障害の治療にセロトニントランスポーターや代謝酵素の阻害薬が用い
られるため[19]、情動の調節にセロトニン神経系が関与すると考えられている。
うつ病から回復した患者の血中トリプトファン(セロトニンの前駆物質)濃度を低下させ
ると抑うつ症状が表れるため、うつ病もしくはその治療によってセロトニン神経系の
機能が変化すると考えられる[20]。うつ病患者ではセロトニンによる神経内分泌制御
機能の低下や5-HT1A受容体のリガンド結合が低下しているが、これらの変化はうつ症
状が無くなった後も持続するので、うつ状態と直接関係しているとは考え難い[20]。
また、一般にセロトニン系の薬物の治療効果が発現するまでには数週間かかり、
トリプトファンレベルを変化させても健常者では気分の変化は生じないため、
単純にセロトニンレベルの増減で気分が変化するのではない[20]。
健常者においてトリプトファンレベルを変化させると恐怖や幸福の表情の認識が変化
する[21]。実験動物において薬物によってセロトニン神経機能を障害すると不安様行動
が低下する[22]。セロトニン神経に対して抑制的に働く5-HT1A自己受容体を特異的
に欠損させたマウスでは不安様行動が増加する[23]。セロトニン神経の障害や
セロトニン含量の低下を生じさせた遺伝子改変マウスでは、ほとんどの例で不安様
行動が低下するが、うつ様行動については一致した結果が得られていない[24]。
セロトニントランスポーターを欠損させたマウスでは脳内のセロトニンレベルが上昇し、
不安様行動が増加する。