http://www.bbc.com/japanese/40102753

米西岸北部オレゴン州ポートランドの通勤列車で、ムスリム(イスラム教徒)の少女2人に差別的暴言を吐き、制止しようとした乗客3人を死傷した疑いで逮捕された容疑者が29日、法廷で「アメリカの敵は死ね」、「自由がいやなら出ていけ」などと叫んだ。

事件は26日午前、ジェレミー・クリスチャン容疑者(35)が通勤列車で16歳と17歳の女性に向かって、イスラム教徒への差別的暴言を浴びせ続けることで始まった。容疑者と女性たちの間に、タリーシン・ムルジン・ナムカイ・メシェさん(23)とリッキー・ジョン・ベストさん(53)、マイカ・デイビッド・コール・フレッチャーさん(21)が割って入ったところ、容疑者に刺された。ナムカイ・メシェさんとベストさんは死亡し、フレッチャーさんは重傷を負った。

容疑者は現場から逃走したが間もなく逮捕された。29日にマルトノマ郡巡回裁判所に出廷し、殺人、殺人未遂、威圧、武器の所持などの疑いで訴追されたが、罪状認否には答えなかった。

その代わりに容疑者は、「お前らはテロと言うが、自分にとっては愛国だ」、「アメリカの敵に死を」などと怒鳴った。さらに、「言論の自由だ。俺たちの自由がいやならこの国を出て行け。アンティファに死を」と叫んだ。「アンティファ」とは「anti-fascist」の略で、「反ファシスト運動」を意味する略語。

容疑者に首を刺されて重傷を負ったマイカ・フレッチャーさんはこの日、傍聴席にいた。

友人と容疑者に暴言を浴びせられたデスティニー・マンガムさん(16)は、地元テレビ局KPTVに対して、友人はイスラム教徒にとって神聖な「ラマダン」初日だったのでヒジャブでかぶっていたと説明。それが容疑者の目に止まり、「サウジアラビアに帰れと言われた」のだという。

「私たちはここにいちゃいけない、自分の国から出て行けと言われた。基本的に私たちは意味のない存在で、自分で自分を殺してしまえとも言われた」

死亡したナムカイ・メシェさんは昨年大学を卒業し、環境コンサルタント会社でインターンとして働き始めたところだった。経済学を修め、指導教授によると「ほかの人たちが世界をどう見ているか知りたい」ので、イスラム教の入門講座も受講していたという。

ベストさんは2012年まで23年間、米陸軍に勤めた退役兵で、2015年からはポートランド市役所で働いていた。ベストさんには子供が4人いる。長男のエリック・ベストさんはCBSニュースに対して、自分の父親が何をしたか知らされて、驚かなかったと話した。

重傷を負ったマイカ・フレッチャーさんは、ムスリム米国人を含む少数派が経験する差別について詩を書き、2013年にコンテストで優勝している。「だっていったい、どこまでが予防でどこからが保護なんだ?」と自作の詩を朗読する姿は、YouTubeで見ることができる。

事件以来、被害者たちのために義援金を集める様々なサイトが立ち上がり、これまでに100万ドル(約1億1000万円)以上が集まっている。

ナムカイ・メシェさんの母、アシャ・デリバランスさんはドナルド・トランプ米大統領に宛てた公開書簡をフェイスブックに投稿し、「行動を起こす」よう求めた。
「あなたの言葉と行動は、ここアメリカと世界中で、意味をもつのです」
「お願いです。すべてのアメリカ人に、お互いを守り、見守るよう呼びかけてください。ヘイトスピーチ(憎悪表現)やヘイト(憎悪)団体のせいで起きる、すべての暴力行為を非難してください」
「そのためにご自分の指導力を活用してください。祈っています」

(リンク先に続きあり)

(英語記事 Portland stabbing: Jeremy Joseph Christian appears in court)

法廷で怒鳴り続けたクリスチャン容疑者Image copyrightREUTERS
https://ichef-1.bbci.co.uk/news/410/cpsprodpb/8794/production/_96280743_suspect_reu976.jpg
暴言を浴びせられている少女たちを助けようとして刺殺された、リッキー・ジョン・ベストさん(左)とタリーシン・ムルジン・ナムカイ・メシェさんImage copyrightVAJRA ALAYA-MAITREYA
https://ichef.bbci.co.uk/news/410/cpsprodpb/103AD/production/_96277466_cmpossss.jpg
PORTLAND MERCURY/ DOUG BROWN
4月の極右集会で撮影された容疑者
https://ichef.bbci.co.uk/news/410/cpsprodpb/17A45/production/_96273869_capt75rfuure.jpg
事件現場の壁には住民が思い思いに、「勇気をありがとう」、「平和!」、「愛が勝つ!」、「こんなことで立ち止まらない」などとメッセージを書いている
https://ichef.bbci.co.uk/news/410/cpsprodpb/68D5/production/_96273862_tv039778579.jpg