「記者クラブ廃止」「独立機関設立」…国連特別報告者が提言 大手メディアはほぼ無視(楊井人文)
楊井人文 | 日本報道検証機構代表・弁護士
2016/4/26(火) 11:29
https://news.yahoo.co.jp/byline/yanaihitofumi/20160426-00057026/

表現の自由に関する日本の状況を来日調査した国連の特別報告者、デビッド・ケイ氏が4月19日、暫定的な調査報告(以下「暫定報告」)を発表し、外国特派員協会で記者会見を行った。これについて新聞・テレビの大手メディアがどう報道したか調べたところ、案の定というべきか、肝心なメッセージが抜け落ちていた。
デビッド氏は、日本の「メディアの独立性」が重大な脅威に直面しているとの見解を示したが、「政府の圧力」など外部要因だけに問題があると指摘したわけではなかった。政府与党側の言動や特定秘密保護法などの法制度にも数々の問題があるが、メディア自身にも問題があり、改革すべき構造的要因があることをはっきりと指摘していた。そして、いくつかの重要な具体的提言もしていた。記者クラブ制度の廃止、メディア横断組織の設立、放送法4条廃止、政府から独立した放送監督機関の設置である(参照=デビッド・ケイ氏の暫定報告、記者会見動画、会見詳報(1)、(2))。


「記者クラブ廃止」提言を報じたのは…
デビッド氏は、暫定報告の「メディアの独立性」(Media Independence)という節で、こう指摘した。
もし日本のジャーナリストが独立、団結、自主規制のためのプロフェッショナルなメディア横断組織をもっていたなら、政府の影響力行使に容易に抵抗することができたであろう。しかし、彼らはそうしない。いわゆる「記者クラブ」制度はアクセスと排除を重んじ、フリーランスやオンラインジャーナリズムに害を与えている。

Indeed, if journalists in Japan had professional media-wide institutions of independence, solidarity and self-regulation, they would likely be able to resist with ease attempts at Government influence. But they don't. The so-called "kisha club" system, or press clubs, value access and exclusion, to the detriment of freelance and online journalism.
http://www.ohchr.org/en/NewsEvents/Pages/DisplayNews.aspx?NewsID=19842&;LangID=E

出典:デビッド・ケイ氏の暫定報告(日本語の仮訳は引用者)

デビッド氏は記者会見の冒頭発言でも、報道評議会(Press Council)といった「メディア横断組織」の設立を強く奨励すると強調(会見動画14:17〜、ハフィントン・ポスト抄訳)。記者クラブについても、「アクセスジャーナリズム」(引用注:取材対象と癒着した不健全なジャーナリズム)を促進し、メディアの独立性を阻害し、国民の知る権利を制約していると批判し、明確に「廃止すべき」(should be abolished)との考えを表明した(会見動画45:09〜)。
ところが、4月25日までの在京6紙の報道を調べたところ、記者クラブ廃止の提言については、東京新聞(20日付朝刊3面)と朝日新聞(デジタル版)が少し触れた程度で、毎日、読売、産経は全く触れていなかった(日経は、デビッド氏の来日調査について報じた記事がゼロ)。朝日はデジタル版記事で、デビッド氏が「記者クラブの排他性も指摘し『記者クラブは廃止すべきだ。情報へのアクセスを制限し、メディアの独立を妨害している制度だ』と批判した」と報じていたのに、なぜか紙面版記事では提言の部分がカットされていた。
「メディア横断組織」設立の提言については、どの新聞も言及していなかった。もっとも、新聞業界に対しては日弁連が過去に何度も、報道評議会のような自主規制のための横断組織の設立を提言してきたが(たとえば1999年決議)、それに呼応する動きは全くみられないのが現状だ。