タンチョウ増加で農業と共存は|NHK 北海道のニュース
http://www3.nhk.or.jp/sapporo-news/20170607/4038741.html

06月07日 20時08分

釧路湿原などにすむ国の特別天然記念物タンチョウは一時、絶滅の寸前まで減少しましたが、これまでの手厚い保護で、生息数は1800羽ほどにまで増えています。
しかしいま、生息数の増加が、周辺地域の農業に影響を与えています。
頻繁に畑に舞い込むタンチョウ。
道東の鶴居村では、タンチョウの増加とともに、農業への被害が目立つようになっています。
被害にあっているのは、飼料用のとうもろこし。
発芽したばかりの種の部分が狙われます。
冬のえさやりを目当てに集まったタンチョウが畑のまわりに居座り、収穫量にして150トン分以上が食い荒らされているのです。
農家の人は「折られたものは枯れていくだけなのでほんとうに困る」などと話しています。
鶴居村では、被害の対策に乗り出しています。
タンチョウの追い払いを村から委託されている佐藤吉人さんは毎朝4時から畑を見まわります。
佐藤さんが受け持つ畑の広さはおよそ140ヘクタール。
札幌ドーム26個分の広さをひとりで駆け回ります。
笛を吹いて、追い払う。
有効な方法は、今のところ、他にはないといいます。
佐藤さんは「朝から晩までずっとというのは、ちょっと無理ですね。
野生動物との共存とはよく使われる言葉だけど、ほんとうに難しいと、関わっている人はみんなそう思っています」と話しています。
農業被害に悩まされる地域がある一方で、タンチョウを町の呼びものにしようという地域もあります。
鶴居村から西に200キロほど離れた長沼町です。
“舞鶴”地区の農家、柏敏春さんは「この地域は舞鶴といい昔からそのツルがおったということを聞いていますから、あやかれたらいいかなと思います」と話しています。
30年ほど前から農薬の使用を減らすなど、環境に配慮した農業を行ってきた柏さん。
タンチョウをシンボルに、米など地元の農産物をブランド化したいと考えています。
そうした中、去年、舞鶴地区にタンチョウ2羽が飛来。
呼び戻そうという機運が高まりました。
町内には、およそ200ヘクタールの遊水地も完成。
今後は、ヨシが生えやすくするなど、タンチョウが繁殖しやすい環境をさらに整備していく予定です。
エサやりはせず、自然に近い形で呼び込むことで、タンチョウと人々がのどかに暮らせる地域を柏さんたちは目指しています。
柏さんは「安心安全で皆さまから慕われる好まれる農作物を作る。
タンチョウとともに歩んでいける農業というか地域であればいいと思います」と話しています。
30年以上タンチョウの研究を続けている百瀬邦和さんは、長沼町での取り組みに大きな期待を寄せています。
百瀬さんは「道東地域から道北、道央、その先の道南も含めて、数はそれほど多くなくても、生息地が広がって、成功例として発信できれば、それがまた第2第3の長沼町につながっていくんだろうなと期待しています」と話しています。
タンチョウと人々がともに暮らしやすい環境づくりが求められています。
長沼町では、トキで有名な佐渡島など、野鳥をシンボルにして、コメのブランド化に成功した地域を参考に、農産物のブランド化を進めたいとしています。
長沼町の取り組みが、タンチョウと農家とが今後、共存していくための一助となるか注目されます。