http://www.nikkei.com/article/DGXLASDZ26IL1_W7A620C1TJ1000/

2017/6/26 20:48

 大日本住友製薬は26日、開発中の抗がん剤「ナパブカシン」の販売計画が大幅に遅れると発表した。胃がんでの最終段階の臨床試験(治験)が事実上失敗し、当初2018年度としていた当局への販売申請は最短でも20年度までずれ込む。ナパブカシンは年間売上高が1千億円を超える超大型薬「ブロックバスター」に成長する可能性があるとみられていた。

 ナパブカシンは、がんの親玉である「がん幹細胞」をピンポイントで攻撃する世界初の新薬候補として注目を集めていた。またナパブカシンは比較的低コストで治療効果が期待できるとされ、開発費の抑制にもつながるため製薬各社や市場関係者が注視していた。

 大日本住友は主力の抗精神病薬の特許切れを19年度に控えており、ナパブカシンで収益の穴を埋める考えだった。

 今回の発表を受け株価は急落。26日の終値は前日比104円(6%)安の1598円まで下落した。

 大日本住友は胃がん患者を対象に日米で進めてきた最終段階の治験データの途中解析で、患者の生存期間の比較で既存薬などと比べ優れた延命効果が出る可能性が低いという勧告を治験の中立的な評価組織から受けた。このため18年度を予定していた申請をあきらめ、大腸がんなど別の治験で承認申請を目指す方針に切り替えたという。

 同社は16年度に連結売上高の2割に相当する約800億円を研究開発費として投じた。17年度は850億円を予定している。多田正世社長は5月の決算説明会で、精神神経領域とがん領域の研究開発を加速させる方針を強調していた。その上で「ナパブカシンの最終治験を推進させる」と話していただけに、今回の失敗は同社にとって大きな痛手となったことは間違いない。

 製薬会社は1つの新薬候補に計1000億円近くの開発費を投じるが、治験の最終段階で失敗するケースも多い。

 第一三共は今年2月に肝細胞がんを対象に実施していた抗がん剤「チバンチニブ」の開発を中止した。最終的な試験である第3相臨床試験で主な評価軸としていた生存期間の延長を達成できなかった。他のがん種も含めて、開発を断念した。同薬は12年にも非小細胞肺がんの第3相治験を中止している。

 武田薬品工業は血液がん向けの抗がん剤「アリセルチブ」の開発を15年に中止した。既存の治療方法を上回る有効性が確認できなかったため。ただ、小細胞肺がんを含む他のがんへの適応の検討は続けているという。アステラス製薬も14年、腎細胞がんなどで進めていた臨床試験を中止した。

 米国の論文によると、第3相臨床試験に進んだ抗がん剤の7割強は有効性を証明できないなどで、承認を獲得することができなかった。