「生命尊重の日」を定め、胎児の命の大切さに思いを寄せよう――。石川県加賀市でそんな条例が6月、施行された。市は少子化対策の一環と位置づける。産まない選択への無言の圧力につながりかねないと、識者らは懸念する。

 条例は7月13日を「お腹(なか)の赤ちゃんを大切にする加賀市生命尊重の日」と定めるが、この日は、人工妊娠中絶が可能な条件を規定した母体保護法(旧優生保護法)の公布日にあたる。市は「(同法が)母性の生命と健康の保護を目的としており、生命尊重の日にふさわしい」と説明する。

 条例は、出産準備手当といった従来の子育て支援と同様、出生率向上策の一つという。制定に先立ち、市は今年度当初予算に50万円を計上し、今月13日に啓発講演会を開くと決めていた。

 条例の提案者は宮元陸市長だ。6月の定例議会に議案を提出し、「お腹の赤ちゃんを一人の人として尊重し、社会全体が温かく迎えることを改めて考える日」と説明した。市によると、こうした趣旨の条例を定めるのは全国初。

 教育民生委員会の審議では一部の委員が異議を唱えた。「産む、産まないを決めるのは個人。条例は妊娠したら大事にして産みなさいというメッセージにつながる」「中絶をめぐっては議論があり、条例化は慎重にすべきではないか」。26日の本会議では賛成多数で可決、成立した。

 条例を巡っては、同じ日を生命尊重の日に制定するよう求める要望書が2月、市に提出された。「円ブリオ石川 生命尊重センター NPO法人円ブリオ基金センター」の団体名で「人工妊娠中絶によって、年間17万6千人のお腹の赤ちゃんのいのちが失われている」などと記している。

 要望書の添付書類などによると、生命尊重センター(東京)は1984年に発足し、「お腹の赤ちゃんも社会の大切なメンバー」と訴え、全国で講演会などを開く。93年には胎児と母親を救う寄付を募る「円ブリオ基金」を設け、電話相談などで妊娠に悩む人を支援し、各地に関連団体がある。

 加賀市の条例を受け、「生命尊重の日」の趣旨や中絶に対する考えを朝日新聞が尋ねたところ、同センターは「会の中には、中絶の是非や産まない選択について、胎児の生命の始期をどう考えるかをめぐって色々な考え方があります」と書面で回答した。

 宮元市長は、命を大切にする啓発が必要だと以前から考えており、要望はあくまで一つのきっかけだ、と話す。「産まない選択は法的に認められた権利で、色々な事情を抱えている個々人について言うつもりはない。条例でも言及していない」

 動きは他にもある。滋賀県愛荘…

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