「息抜きは部屋でテレビを見たり、ゲームをするくらい。塾があるから外遊びなんてとても無理」

一日の大半を屋内で過ごす。
これが今どきの子供たちの生活スタイルだ。

親にとっては目が届くぶんだけ安心かもしれないが、その生活習慣が将来、問題になるかもしれない。
失明につながる目の病気のリスクをアップさせかねないからだ。

いま、世界中で「パンデミック(感染爆発)」並みの凄まじい勢いで「近視」が増加している。
2015年、英科学雑誌「ネイチャー」に掲載された論文によれば、世界の全人口の3分の1(25億人)が20年までに近視になると推測されている。
その原因について世界中の眼科専門医や科学者が研究を進めているが、慶応義塾大学医学部眼科学教室・近視研究チームは、「ある特定の波長の光」が影響していると指摘する。

近視は小学生から高校生までの間に最も急激に進行する。
これまでは大人になるとそれ以上は進まないとされてきたが、最近は大人になっても近視の進行が止まらない人が増えているという。
同チームの代表者、鳥居秀成医師が言う。

「問題は強度近視がさらに進み、一部が病的近視となり、最終的に失明してしまう人が少なくないことです。
日本の失明原因の第5位(約7・8%)は強度近視によるもので、この割合は年々上がっています」

16年度の文科省の調査によると、国内の子供の近視率(裸眼視力1・0未満)は、小学生が約31%、中学生が約55%、高校生が約66%と年々増加傾向にある。

■ 裸眼のメリットは計り知れない

なぜ子供の近視が増加しているのか。大人になっても進行の止まらない人が増えているのか。
その問いを解くカギは、近視のエビデンスの中でも唯一、確実とされている「外で遊ぶと近視になりにくい」というものだ。
10年ほど前から言われ始めた説で、勉強や読書などよりも明確に近視との相関が認められているという。

「そこで目を付けたのは、現代社会で失われていた『ある特定の波長の光』の影響です。
太陽光に豊富に含まれ、可視光で最も波長の短い紫色の光(波長360〜400ナノメートル)なので、私たちは『バイオレットライト』と呼んでいます。
動物実験などの基礎研究と臨床研究の両面から検証した結果、この光が近視進行抑制に関与していることが分かってきました」

近視のメカニズムのひとつは、「眼軸長」が伸びることで起こる。
眼軸長とは目の長さ(奥行き)で、生まれたときは17ミリ程度だが、大人になると平均24ミリまで伸びる。

伸びること自体は正常なプロセスだが、眼軸長が成長し過ぎてしまうと矯正が必要なレベルの近視になってしまう。
つまり、子供の頃にバイオレットライトを浴びないと、眼軸長が伸び過ぎてしまう環境因子になるわけだ。

ところが、現代社会では子供の外遊びが減少。
加えて、紫外線の悪影響が強調されてバイオレットライトまで遮断してしまうUVカット仕様のメガネやコンタクトレンズ、窓ガラスが多い。しかも屋内の蛍光灯やLEDライトにはバイオレットライトは含まれていない。
では、子供の近視予防として、どのような生活を心がけるべきなのか。

「いまのところ唯一、確かとされている予防法は『外遊び』です。私たちは1日2時間程度を勧めています。
バイオレットライトの多い時間帯は、午前10時から午後4時くらい。外遊びといっても直射日光に当たる必要はありません。
むしろ、日差しの強いいまの時季は、過ごしやすい日陰で帽子をかぶって遊ぶ方がいいでしょう」

大人へのバイオレットライトの必要性は、まだ検証が必要という。
紫外線による白内障や皮膚がんなどの発症の影響もあるので、現時点では子供を対象とした「外遊び」を推奨している。

地震や洪水など自然災害が目立ついま、裸眼のメリットは計り知れない。
将来を考えるのなら、子供も大人も外で活動する時間を増やすべきだ。

https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/209340/1
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/209340/2
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/209340/3
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/209340/4