>>1続き

■箱が残っても意味がない

日本企業の場合、円高などで輸出採算が悪化すると、価格の引き上げなどを行わず、コスト削減に力を入れてきた。このため、人件費も抑えられ、有能な技術者にも「国際標準」並みの給与を支払うことができなかった。
それでも、今までは「閉ざされた」採用システムだったため、外資系企業に有能な人材をさらわれる心配はなかったのだが、それが急速に壊れ始めたのである。

これは、日本を代表する企業にとってだけでなく、日本の製造業全体にとっての危機だ。優秀な技術者が相次いで外資系メーカーに流れるとなれば、日本企業は人材の面から崩壊しかねない。
同僚や先輩が転職すれば、その人的なつながりで転職が加速することになる。

伝統的な日本企業は、今でも日本型の雇用システムにこだわっている。終身雇用を前提にした年功序列賃金をなかなか壊せない。その結果、市場価値が高い優秀な人材を薄給で放置していることになるわけだ。

伝統的な日本企業は円安で潤った分を人件費にほとんど回していない。多くが内部留保に回されているのだ。それも業績連動の報酬ではなく、年功序列の報酬体系になっているためだろう。
早急にこうした日本型の人事体制を見直し、中堅や若手に国際水準の給与を支払うことが先決だろう。

東芝など日本の代表的な企業が経営危機に陥ると、「日本の技術を流出させるな」といった議論が盛り上がる。だが、いくら会社という「箱」が残っても、優秀な人材がいなくなれば、技術力は守ることなどできない。