<働き方改革>「残業しわ寄せ」に苦しむ中小企業の対応
毎日新聞 8/13(日) 9:30|Yahoo!ニュース
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 働き方改革が進む中、残業抑制策を進める企業も増えています。しかしその結果、大企業の仕事を引き受ける中小企業が苦しむケースもあります。しわ寄せを受ける中小企業がどうすべきか、特定社会保険労務士の井寄奈美さんが解説します。【毎日新聞経済プレミア】

 ◇顧客企業と夕方以降の打ち合わせが急増

 A太さん(55)は、従業員数約20人の小さな広告代理店を経営しています。主な事業は、広告宣伝用販促物の企画・制作ですが、今年に入ってから急に業務量が増え、社員の残業や休日出勤が増えました。A太さんはこのままでは社員に過剰な負担がかかると考え、なぜ残業が増えているのかを調べました。

 社員は昨年まで、顧客企業に出向いて打ち合わせをし、顧客の依頼内容を会社に持ち帰って作業していました。しかし最近はそのスタイルに加えて、顧客企業の担当者が会社に来て、打ち合わせをすることが増えました。

 顧客の来社は、その大半が午後5時以降です。会社には小さな会議室が一つと打ち合わせスペースが1カ所ありますが、夕方以降2カ所とも埋まる日が増えました。担当者は午後5時以降の打ち合わせの後、作業をするため、残業せざるを得ません。退社時間が遅くなる傾向にありました。

 A太さんは「夕方以降の打ち合わせの場合は翌日の昼間に作業すればどうか」と社員に提案しました。しかし、社員からは「昼間は電話やメールの対応、顧客企業での打ち合わせがあって作業に集中する時間がない」と言います。

 さらに最近では「顧客から土日にも打ち合わせの依頼がある」と訴えられました。依頼を一度受け入れれば休めなくなるため断っているが、どう対応すればよいか困っているといいます。

 そこでA太さんは、夕方以降に来社した顧客との打ち合わせに同席して、最近来社して打ち合わせすることが増えている理由を顧客に聞いてみました。その答えはこうでした。

 「毎回、遅い時刻の訪問で申し訳なく思っています。当社の事情で残業が制限され、夕方以降会社に残れないのです。会社には直帰することにして、外注先で打ち合わせをさせてもらっています。また会社からは、『外注先で受けてもらえる仕事はできるだけ外注先に』と指示が出ており、お任せする仕事量も増えて大変だと思います。いつも無理を聞いていただき、助かっています」

 ◇無理ばかり言う顧客には契約解除を申し入れ

 A太さんの会社で社員の残業や休日出勤が増えているのは、顧客企業の残業時間削減の取り組みが大きな理由の一つだったのです。今年は受注量が多く利益も増えました。社員には今年の夏のボーナスを多めに払えましたが、社員は明らかに疲弊していました。このままではまずいと考えたA太さんは、対策を始めました。

 まず中途採用の募集を開始しました。そして、同社退職後にフリーランスで仕事をしている元社員と業務委託契約を結ぶなどして、人手を増やしました。

 また個々の社員の担当企業を見直し、夕方以降の打ち合わせが多い企業の担当を数人の社員にまとめました。その社員は昼間に集中して作業できるようにして、残業で遅くなった翌日は午後出勤も可能にしました。さらに数人の派遣社員を雇用して作業アシスタントを任せ、当面の間の社員の作業量を減らして、みなが早く退社できるようにしました。

 顧客企業にも納期の交渉を行いました。業務ごとに作業に必要な営業日数を伝えたのです。無理ばかり言う顧客は、契約の解除を申し入れることにしました。

 ◇できることとできないことをはっきりと伝える

 多くの会社の就業規則では、「直行・直帰や出張など社外で業務をする場合は、所定労働時間労働したものとみなす」という労働基準法に定められる「事業場外みなし労働時間制」を導入しているため、自社で残業できない人が取引先企業との打ち合わせを社外で就業時間外に行うケースもあるようです。

 顧客の要望にできるだけ応えることは、商売をする上で大切です。しかし、社員の健康を害しては元も子もありません。

 経営者は、顧客に「自社でできること、できないこと」をはっきりと伝え、取引条件の交渉や無理な仕事は受けないという決断をしなければなりません。そして社内の業務を見直し、社員に「やらなくてもいいこと」を示す必要があるのです。