8/24(木) 11:17配信 毎日新聞

 再開発が進むパリ市内や近郊で、日本人建築家が設計した商業施設や美術館が急増している。大規模プロジェクトだけで10を超え、さながら“日本人建築家ブーム”の様相だ。伝統的な西洋建築が並ぶフランスで、日本人感覚がなぜウケているのか。【パリで松井聡】

 パリ西郊、セーヌ川の中州に、太陽光発電パネルが輝く帆船をイメージした巨大な建物が川に浮かぶように建つ。今年4月、オープンした音楽複合施設「ラ・セーヌ・ミュージカル」だ。仏自動車大手ルノー工場跡地の再開発の一環で、6000人収容の多目的大ホールなどが設けられている。設計は世界的に活躍する坂(ばん)茂さん(60)。コンサートを聴きによく訪れるというジャンピエール・ルソーさん(27)は「太陽光で明るいうえ、内装に木がふんだんに使われ、まるで森の中にいるみたい。日本伝統の木造建築が生きている気がする」と空間を楽しんでいた。

 パリ市内や近郊では、老朽化した倉庫や工場の跡地の再開発計画が進む。なかでも最大の計画は、政府主導で約350億ユーロ(約4兆2760億円)以上をかけて郊外を再開発し、鉄道などの交通網を拡大して中心部と結ぶ「新グラン・パリ」計画。人口も今の約200万人から1200万人規模まで増やすという一大プロジェクトだ。フランスでの日本人設計の建物は2010年ごろから増え始め、15年以降に急増した。

 世界的に活躍する藤本壮介さん(46)は、新グラン・パリの一部を含め四つのプロジェクトを進めている。パリ郊外サクレー地区にあるグランゼコール(エリート養成学校)の研修施設の設計や、バスターミナルやホテルが入った大型複合施設の設計などで、いずれも国際コンペを勝ち抜いた。

 勝因について、藤本さんはフランスで仕事をする際は「その場所が持つ価値を理解し、伝統を尊重することを重視している」と分析する。「脈々とつながる歴史を未来につないでいくという意識を持っている。伝統と革新が引き立て合うことを目指している」と意欲的だ。

 新グラン・パリで拠点駅となるサンドニ・プレイエル駅の設計を任された隈研吾さん(63)も、これまでも南部マルセイユの現代美術センターなど10以上の大型プロジェクトを手掛け、高い評価を受けている。隈さんは「欧州ではドイツや英国よりもフランスでの仕事が多い」と明かし、「日本人はフランス人より細部にこだわる。その繊細さがフランス人には魅力的に映るのでは」と語る。

 フランスでは歴史的な建物を環境とともに保存する「マルロー法」が1962年に制定され、高さ制限などを設けて景観を守ってきた。文化行政を担当するパリ市のミシカ副市長は、自然との一体感を演出する日本人建築家の手法は「フランス人とは違うセンスで魅力的」と話し、絶賛した。「日本人の建築物は、フランスの伝統的な風景と見事に調和するんです」

 日本とフランスの建築でのつながりは「近代建築の巨匠」と言われるル・コルビュジエ(1887〜1965年)までさかのぼる。1920〜30年代、前川国男と坂倉準三がパリでコルビュジエに学んだ。日本の建築は2人を通してコルビュジエから影響を受け、独自に発展してきた。

 パリでは「パリの日本建築」展示会が6月から開催中。9月にもフランス東部のメスで「戦後の日本建築」を題材にした展示会が予定されており、まだまだ熱い視線が注がれている。

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170824-00000040-mai-soci
https://cdn.mainichi.jp/vol1/2017/08/24/20170824k0000e040290000p/8.jpg