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William Pesek

[東京 1日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 為替トレーダーは的を外しつつある。北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長が29日発射した弾道ミサイルが、日本の上空通過したことを受け、市場は安全資産と思われている円買いに走った。

だが、北朝鮮が次に実験を行ったときには日本が文字通り最前線の渦中に身を置きかねないことを考えると、これは奇妙な話だ。

たとえ北朝鮮のミサイル発射がなかったとしても、アジア第2の経済大国である日本は、資金の安全な逃避先としては非現実的となりつつある。

他の主要中央銀行が利上げ、もしくは国債買い入れ縮小に向けて動くなか、日本は自国の経済問題に対処するために円安を容認し続けている。そのため、突然の市場介入の可能性も排除できない。

だがトレーダーは、円の代わりとなる通貨を探すのに苦労している。世界3大通貨の1つである円は流動性も高く、例えば、スイスフランよりも魅力的である。トレーダーが低金利通貨で資金調達し、高金利通貨で運用するなかで、資金調達通貨としての円の重要な役割は、同通貨をユーロよりも優位な立場に置いている。

北朝鮮の挑発行動は、リスクプロファイルを変えつつある。

29日の発射実験はさらなる行動の「前奏曲」にすぎないと北朝鮮が表明する一方で、トランプ米大統領は「対話は答えではない」と語っている。韓国の国家情報院(NIS)によると、北朝鮮が6回目となる核実験を近く実施する可能性がある。

トランプ大統領にとって、先制攻撃のための良い選択肢は存在しない。それでも同大統領は気持ちを抑えられないかもしれない。何しろ、4月にシリアの空軍基地に巡航ミサイル攻撃を行ったのだから。

金正恩氏が報復に出た場合、米国にとって不可欠な同盟国である日本が標的にされるのは明白である。このことは、「安全な逃避先」として円を買いだめする論拠を消し去ってしまう。

日本が誤って直撃を受ける可能性もある。ミサイルがコースから外れることもあるからだ。どちらにせよ、そうなれば日本の株式、債券利回り、そして円は急落するだろう。

こうした最悪のシナリオはさておき、円の上昇は、安倍晋三首相の経済再生計画にとって最も避けたいことだ。日本が2006年以来、最長となる経済成長を享受するなか、強い通貨は歓迎されないだろう。5年が経過したアベノミクスは、企業利益を押し上げ、ひいては賃金を上昇させるのに主に円安に依存している。

29日のミサイル発射により、円は4月以来の高値水準を付けた。核実験が実施されれば、さらに円高が進行する可能性もある。実際に衝突が起きなくても、アベノミクスがダメージを受ける可能性はある。

2017年 9月 2日 8:44 AM JST