カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の研究チームは、初期宇宙における原始ブラックホールの発生メカニズムを説明する新理論を発表した。この理論にもとづくと、金、銀、プラチナ、ウランといった重元素の生成についても、原始ブラックホールの働きによって説明できるという。この研究に関する論文2本が物理学誌「Physical Review Letters」に掲載された。

ビッグバンによる宇宙誕生後、最初のブラックホールが発生するまでにどれくらいの時間がかかったかという問題は、宇宙物理学上の未解決の謎として残っている。原始ブラックホールはビッグバンから1秒未満といった短い時間で発生したとする説もあれば、宇宙の最初期に作られた恒星が数百万年かけて寿命を迎えたときはじめて最初のブラックホールになったとする説もある。

今回UCLAの研究チームが発表した理論(論文1)は、原始ブラックホールの発生がビッグバン後の非常に短い時間で起こったとするものである。最初期の恒星が輝きはじめるよりも遥かに前の時期に、原始ブラックホールはすでに存在していたと主張している。

同理論では、ビッグバン直後には均一なエネルギーの場が宇宙全体を満たしていたと想定するところから議論を進める。このような均一なエネルギー場が遠い過去において存在していたと研究チームは予想する。

その後、宇宙の急激な膨張がはじまると、エネルギー場は複数の塊に分裂していったと考えられる。これらのエネルギーの塊のいくつかは、重力の作用によって互いに引き寄せ合い、合体して1つになる。そして合体成長するエネルギー塊の中には、ブラックホールが発生するのに十分なほど高密度になったものも、わずかながらあったと考えられるとする。

研究チームのUCLA物理学教授Alexander Kusenko氏は、この仮説について「原始ブラックホールの発生に関するこれまでの理論に使われていたようなあり得そうもない偶然に依存するところがなく、かなり包括的なものである」と強調している。

Kusenko氏らが発表したもう1つの研究(論文2)では、地球上に存在する金、銀、プラチナ、ウランなどの重元素の生成に関して、原始ブラックホールが重要な役割を担っている可能性があるという問題を論じている。これらの重元素の宇宙における起源も、宇宙物理学では長らく謎とされてきた問題である。

論文では、原始ブラックホールが中性子星と衝突した場合、何が起こるかについて考察している。こうした事象が起こると、原始ブラックホールは中性子星の内部に入り込み、中性子星を内側から飲み込んでいくと考えられる。この過程には1万年くらいの時間を要し、中性子星が小さく収縮していくにつれて、高速で自転している中性子星の自転速度がますます速まる。高速回転の結果、中性子星に付着していられなくなる小さな破片が生じ、宇宙空間に投げ出される。

このようにして中性子を多量に含んだ物質が宇宙に放出されると、中性子が融合して重元素になるための反応サイトとして働くようになると考えられる。

ただし、「原始ブラックホールが中性子星の内部に取り込まれる確率はかなり低い」とKusenko氏は指摘する。この確率の低さは、重元素を多く含んだ矮小銀河がわずかしか観測されていないという事実とよく一致する。また、天の川銀河の中心部に中性子星が観測されていないという問題も、原始ブラックホールと中性子星の衝突で重元素が生成されたとする理論で説明がつくとしている。

研究チームはこの冬、プリンストン大学のチームと共同で、中性子星とブラックホールの相互作用による重元素生成をコンピュータシミュレーションで検証する計画を立てている。シミュレーション結果と近傍の銀河における重元素の観測結果を比較することによって、同理論の妥当性を決定できるとしている。

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