http://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-41276044

ジョナサン・ヘッド BBC東南アジア特派員

ミャンマー治安部隊の残酷な摘発から逃れようと、西部ラカイン州から多数のロヒンギャが国外に脱出している。それについて、ノーベル賞受賞者で実質的指導者のアウンサンスーチー氏は、テロに対する正当な行動だと政府を擁護しており、スーチー氏への国際的な非難が高まっている。こうした状況で、スーチー氏は20日から始まる国連総会の一般討論を欠席する予定だと明らかになったが、そもそもスーチー氏は実際、国内でどれほどの実権を持っているのだろうか。

アウンサンスーチー氏の正式な肩書は「国家顧問」だ。ミャンマー憲法には、外国籍の配偶者や子供を持つ者の大統領就任を禁じる条項がある。そもそもスーチー氏を念頭において作られたこの禁止条項のため、スーチー氏は現行憲法では大統領になれない。そのため新しい「国家顧問」という役職を、スーチー氏は自ら新設したのだ。

スーチー氏はミャンマーで、圧倒的に人気の高い政治家だ。2015年の総選挙では、国民民主連盟(NLD)を率いて圧勝した。党内と内閣の重要決定のほとんどは、スーチー氏によるもので、外務大臣の地位にも就いている。

ティン・チョー大統領は事実上、スーチー氏に従う立場だ。
ミャンマーでは1962年以降、軍部が様々に形を変えながら政権を掌握し続けた。現行憲法は、その軍事政権が制定したもので、信頼性が疑わしい2008年の国民投票で承認された。当時、NLDもスーチー氏も、この憲法を認めなかった。

軍事政権が掲げていた「規律ある民主主義」において憲法は、軍が指導的立場を維持するための鍵となる要素だった。この憲法の下、軍人は議会で4分の1の議席を保障されている。

軍は、内務省、国防省、国境省という3つの重要省庁を掌握している。よって、警察も軍部の統制下にある。
民主政府を停止できるなど強力な権限を持つ国家防衛安全保障会議(NDSC)についても、メンバー11人のうち、6人は軍が指名する。

上位の文民役職にも多くの軍出身者が就いている。さらに、軍は今でも経済界に大きく関わっている。国防支出は医療予算と教育予算の合計より大きい、国家予算の14%を占める。
軍部とスーチー氏は20年以上にわたり、激しく対立を続けた。同氏は15年間、自宅軟禁されていたほどだ。

総選挙後のアウンサンスーチー氏と軍部は、協力し合う方法を探る必要があった。スーチー氏には国民の信任があり、将軍たちは実権を握っていた。

依然として重要な問題については、意見が対立していた。スーチー氏が望む憲法改正しかり。ミャンマー国境付近で70年前から政府と戦ってきた、さまざまな少数民族武装勢力との和平交渉の進捗しかり。

だが経済改革や成長の必要性、急激に変化する緊張が高まる社会に安定をもたらす必要性については、軍部もスーチー氏も同意見だった(社会の安定について、スーチー氏は「法の支配」という言葉を好んで使う)。
>>2以降に続きあり)

(英語記事 Rohingya crisis: How much power does Aung San Suu Kyi really have?)

2017/09/15