昭和46年・昭和天皇ご一家のご会食―『吉兆味ばなし』by湯木貞一

さいごに小さな火鉢で牛肉の炭火焼でご飯を楽しまれた。
陛下は牛肉の炭火焼きのタレをご自分の茶碗のご飯にぱっとかけた。
湯木さんはそれをみて、
「陛下。それは辛子でお辛うございます」
と申し上げるが陛下は、
「いいよ。いいよ。こうするとおいしい」
と、茶碗をおはなしにならない。
湯木さん、すぐ台所に走って行って、新しいお茶碗にご飯をよそっって、
これとかえてくださるようお願いした。
陛下は「こうするとおいしいんだ」とタレかけご飯をたべたそうにする。
湯木さんが泣きそうになりながら茶碗の交換を懇願する。
「これほど、いうんだから替えてあげてください」と宮様方もいわれ、
茶碗を取り替える陛下。
タレかけご飯を食べられなかった昭和天皇がなにやらお気の毒である。


やっぱり焼肉のタレだったわ