http://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-41440729

クリス・モーリス記者、BBCニュース「リアリティ・チェック」担当

英国以外の欧州連合(EU)諸国の市民権に申請した英国人の数は、英国のEU離脱(ブレグジット)決定以降の12カ月で、前年比で何万人も増加した。BBCが入手したデータで明らかになった。

英国人からの二重国籍申請の受理数では、アイルランドが群を抜いて最多となっている。

しかし、2016年7月〜2017年6月のデータがある全ての国で、申請数は倍増以上の伸びだった。
暦年のデータしかない国でも、2015年から2016年は急増している。

英国以外の欧州で市民権を申請した著名人の中には、オスカー受賞歴のある俳優コリン・ファースさんがいる。22日、ファースさんにイタリア市民権が付与されたことが確認された。
そう、ミスター・ダーシーも狼狽(ろうばい)しているのだ。

BBCニュースの「リアリティ・チェック」とラジオ4の番組「モア・オア・レス」は全EU加盟国に取材し、英国人から受け取った市民権の申請について、2016年6月の国民投票前後の数を尋ねた。

各国分の完全な数値は入手できていないが、我々が集めたデータから、ブレグジットの交渉が決裂した場合に備えて、どれだけ多くの人が予防策を講じているのかがうかがえる。

<国民投票前後で比較した英国人による市民権の申請数>

国民投票前の12カ月では、2万5207人の英国人がアイルランドのパスポートを申請した。投票直後の12カ月では、その数は6万4400人に増えた。

急増は他の国でも見られた。スペインでは、申請数は国民投票前の2300件から投票後は 4558件に増加した。
EU周辺の他の国でも、例えばスウェーデン(969件から2002件)、デンマーク(289件から604件)、ポーランド(152件から332件)と、申請数は倍以上に増えた。
また、提供されたデータ形式が若干異なる国もある。
ドイツでは、州ごとに数値を出している。そこでベルリンを見ると、国民投票前1年間の英国人からの申請数は60件だったが、投票後の1年では810件だった。

一方フランスでは、 暦年ベースで数値を出している。そしてここでも、増加は明らかだ。2015年の申請数は385件だったが、2016年は1363件に増え、今年最初の8カ月間ではさらに2129件へ増加した。
なぜ人々が二重国籍を申請しているのか理由を正確に知るのは不可能だが、政治的な状況が背景にあると考えるのは妥当だろう。
例えば毎月ごとのデータが得られるアイルランドでは、最も申請件数が多かったのが今年の3、4、5月だった。今年3月に英政府はリスボン条約(EU基本条約)50条を発動させ、2年間の交渉期間が定まった。

すでにおよそ100万人の英国人が国外のEU域内に住んでおり、英国内にはそれを上回る数の人がEU加盟国の国籍取得を申請する権利を持つ。国民投票後、記録的な数の人々がまさにそれをしているわけだ。
当然ながら、単なる一方通行というわけではない。英国には300万人以上のEU市民が暮らしており、英国人同様に、ブレグジット後に自分の立場がどうなるのか心配している。

<英国市民権を申請中の人の国籍上位10カ国 内務省移民統計から>

ここでもまた、英国市民権の申請数は著しく増えている。国民投票でのEU離脱決定前に申請したEU諸国出身者は1万5871人で、投票後は2万8502人だった。

恐らく、こうした数字は驚きではないだろう。
しかしこの数字は、市民権の発行がなぜ現在のブレグジット交渉の中心となっているのか、あらためて気づかせてくれる。そしてなぜ、英国もEU諸国もこれを解決すべき最優先事項としているのかも。

ブレグジットはしばしば、複雑かつ遠く離れた概念の話だと思いがちだ。しかしこの人たちは、自分や家族の将来を案じている現実の人たちなのだ。

(英語記事 Brexit: Are more British nationals applying for dual nationality in the EU?)

2017/09/29

英国人俳優コリン・ファースさん(右はイタリア人の妻)は今や、英国人でありつつイタリア人でもある
https://ichef-1.bbci.co.uk/news/410/cpsprodpb/17E22/production/_98062879_colinfirth.jpg