【イスタンブール=佐野彰洋】中東の地域大国トルコとイランが接近を続けている。歴史的なライバル関係を抱える中、イラク北部クルド人自治区の独立問題やシリア内戦など地域の課題で歩調をそろえ、4日イランのテヘランでの首脳会談でも関係深化を確認した。イランは核合意を、トルコは過激派組織「イスラム国」(IS)掃討を巡り米国との関係が悪化しており、対米けん制の思惑でも一致している。

 会談終了後の共同記者会見で、イランのロウハニ大統領は9月25日にイラク北部クルド自治政府が実施した独立の是非を問う住民投票について「悪質な間違い」と非難した。トルコのエルドアン大統領も「正当性がない。承認しない」と述べ足並みをそろえた。

 両国は国内のクルド人に独立の動きが波及するのを警戒。それぞれイラク軍との軍事演習を行う。エルドアン氏は何らかの制裁措置を講じる可能性を改めて示唆した。

 経済関係の強化を巡り、エルドアン氏は貿易額を現在の約3倍の300億ドル(約3兆4千億円)を目指すと表明。ロウハニ師は天然ガス輸出の拡大とトルコからの投資受け入れに意欲を示した。エルドアン氏は最高指導者のハメネイ師とも会談する。

 イスラム教スンニ派のトルコとシーア派のイランはオスマン帝国とサファビー朝ペルシャが何度も戦火を交えるなど歴史的なライバル関係にある。シリア内戦を巡ってはイランがアサド政権を、トルコが反体制派を支援。エルドアン氏が「ペルシャの拡張政策を認めない」と批判するなど、2国間関係は一定の緊張をはらんできた。

 それが、足元では一転した。6月にサウジアラビアなどのアラブ諸国がカタールと断交し国境封鎖に乗り出した際には、トルコとイランは直ちに食料などの生活物資を運び込んだ。クルドの住民投票反対でも足並みをそろえた。今夏以降、エルドアン氏は目立ったイラン批判を控えている。

 接近を促した直接の要因は、シリア内戦へのロシアの介入だ。強力な空軍力を有するロシアの後ろ盾を得たアサド政権は反体制派に対する優位を確立した。

 トルコは非現実的となったアサド退陣に固執するよりも、ロシアやイランと組むことでシリアのクルド人勢力封じ込めと、内戦終結をにらんだ主導権確保を優先することへと方針転換した。3カ国主導で和平を協議する「アスタナ・プロセス」の実現につながった。

 両国の接近は外部環境の変化に対応した打算の産物といえる。だが、北大西洋条約機構(NATO)加盟国であるトルコと米国が敵視するイランが歩み寄ることで、米国へのけん制材料としたい思惑もにじむ。

 イランは原子力活動の制限を受け入れる代わりに、国際制裁を解除する米欧中との核合意の破棄を示唆するトランプ米大統領への反発を強めている。トルコもIS掃討でシリアのクルド人勢力を支援しないよう米国に再三求めてきたが、聞き入れられず対米関係が悪化している

配信2017/10/4 20:00
日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO21888820U7A001C1FF2000/