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ことし1月、大阪・和泉市の産婦人科医院で、「無痛分べん」で出産した31歳の女性が死亡する事故があり、警察は女性が呼吸ができなくなったときに、院長が人工呼吸を行うなど十分な対応をしていなかったとして、6日、業務上過失致死の疑いで書類送検することにしています。

ことし1月、大阪・和泉市の産婦人科医院「老木レディスクリニック」で、枚方市に住んでいた長村千惠さん(31)が麻酔で陣痛の痛みを和らげる「無痛分べん」で出産中に意識不明の状態になり、10日後に低酸素脳症で死亡しました。
女の子の赤ちゃんは無事、産まれました。

警察のこれまでの調べによりますと、59歳の院長が局所麻酔をした際に、針が深く刺さりすぎて麻酔が余分に効いてしまい、呼吸ができなくなったと見られ、長村さんは途中で「息がしにくい」と訴えていたということです。

また、複数の専門医に意見を聞くなど捜査を進めた結果、警察は、呼吸ができなくなったときに院長が強制的に肺に酸素を送る人工呼吸を行うなど、十分な対応を取らなかったため死亡した疑いがあるとして、6日、業務上過失致死の疑いで書類送検する方針です。

警察によりますと、これまでの調べに対し、院長は「容体の変化が早く、対応が追いつかなかった」などと説明しているということです。

死亡までの経緯

死亡した長村千惠さんの家族によりますと、長村さんは大阪・枚方市で33歳の夫と2歳の長女の3人で暮らしていました。長女を出産したあとに腰痛に悩まされた経験から、友人から負担が軽いと聞いていた「無痛分べん」を希望したということです。

事故のあと、家族はクリニック側から当日の状況を聞き取って資料をまとめていました。それによりますと、事故当日のことし1月10日の午後3時20分ごろ、院長が背中から麻酔薬を注入する「硬膜外麻酔」を行いました。

そのおよそ10分後の午後3時32分ごろ、長村さんが「ちょっと息がしにくい」と訴え、酸素マスクが装着されました。さらに10分後の午後3時43分ごろには「呼吸困難続く意識レベル低下」と記載されていますが、強制的に酸素を肺に送る人工呼吸は行われませんでした。その後、午後4時すぎに帝王切開で女の子が無事に産まれましたが、長村さんは10日後に低酸素脳症で死亡しました。

NHKの取材に対し、長村さんの68歳の父親は「明るく元気な自慢の娘で、次女を抱くこともなく、亡くなってしまった。残された幼い長女はいつも母親の写真を眺めている。こんなに悔しい事故が二度と起きないよう、真実を明らかにしてほしい」と話していました。

無痛分べん 人気の一方でトラブルも

無痛分べんは、近年、人気が高まっている一方で、妊産婦や子どもが死亡したり、重い障害が残ったりしたとして、トラブルになるケースも出てきています。

ことし8月には、京都府の産婦人科医院で5年前、無痛分べんで出産しようとした40歳の女性が麻酔を受けたあとに一時、心肺停止となり、生まれてきた女の子とともに脳に重い障害が残ったとして、夫などが医師を業務上過失傷害の疑いで警察に刑事告訴しています。

また、おととし、神戸市の産婦人科医院で、当時33歳の女性が麻酔を投与されたあと意識不明となる事故があり、ことし5月に女性が死亡し、生まれてきた子どももことし8月に亡くなりました。夫は厚生労働大臣などに対し、事故の原因究明や再発防止を求める要望書を提出しています。

こうした状況を受けて、日本産婦人科医会では、無痛分べんについて全国の事故の件数を調査しているほか、厚生労働省の研究班でも無痛分べんを安全に行うための実施手順をまとめ、医師に研修態勢を整えるなどの対策を進めています。

10月6日 5時45分