https://www.cnn.co.jp/m/usa/35108417.html

ワシントン(CNN) 身内も含めた高官を容赦なく処刑し、米国を核で全滅させると脅しをかけ、ミサイル実験を繰り返す北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長。米国のトランプ大統領は同氏のそうした言動を「マッドマン」と形容した。

しかし4日にジョージワシントン大学で講演した米中央情報局(CIA)高官は、そうした金委員長の行動について、実権の存続を図る長期的な目標に基づいた理性的な行動だと分析した。

講演の中でCIA高官のヨンスク・リー氏は、「金正恩氏がこれまでにやってきたことにははっきりとした目的がある」と指摘。金氏はある日突然思いついて核を使用するような人物ではないと述べ、「同氏が望んでいるのは、長期的な支配を続けて自分のベッドで安らかに死ぬことだ」と語った。


CIAの要員、外交官、議員といった人々が米国並びに同盟国を北朝鮮の脅威から守る上では、金氏のそうした動機について理解することが、軍事衝突を避ける鍵になる。

「実際のところ、朝鮮半島での衝突を避けたいと誰よりも望んでいるのは金正恩氏なのだ」とリー氏は述べ、「我が国をはじめとする各国は、あの独裁政権に流れる保守主義を過小評価する傾向がある」と分析する。

リー氏やもう1人のCIA高官のマイケル・コリンズ氏によれば、金氏は米国との戦争を望んでいないものの、実権を掌握し続けるためには対立関係を継続させる戦略が鍵を握ると見ている。「北朝鮮は、対立の上に繁栄する政体」だとリー氏は言う。

2011年に父の跡を継いだ金氏がここまでの実権を握ったのは、体制の中で権力を固め、北朝鮮を核保有国へと転換させることを狙った綿密な計算に由来する。

北朝鮮内部では、自分の地位を脅かすと見た相手は積極的に排除する。韓国のシンクタンクによれば、金氏が実権を握って以来、処刑を命じた人物は少なくとも340人。うち140人は、政府や軍、朝鮮労働党の高官だった。

2013年には叔父の張成沢(チャンソンテク)氏を処刑し、マレーシアで今年殺害された異母兄弟の金正男(キムジョンナム)氏も、正恩氏が暗殺を命じたと伝えられる。

金氏のそうした行動は、一時の感情や衝動ではなく、自分のための利益を追求して行動する指導者の特徴に一致するとリー氏は指摘。その姿勢は米国への対応にも表れているといい、「金氏の長期的な目標は、米国との間で何らかの大国合意に持ち込み、朝鮮半島から米軍のプレゼンスを排除することにある」と語った。

ただ、金氏が進める長距離核兵器開発は、米国や地域の米同盟国の安全保障政策と対立してきた。相次ぐミサイル実験や核実験で、その緊急性は一層強まっている。

「北朝鮮は明らかに、米国と国際社会の忍耐を試している」とコリンズ氏は言う。

金氏の行動はまた、中国に見捨てられるのではないか、あるいは米国に軍事攻撃を仕掛けられるのではないかという不安にもはや自らが束縛されなくなったことをうかがわせるという。

その不安がなくなった今、問題は「金正恩氏がどこまでやるか」だとリー氏。

中国は今も北朝鮮に対して重大な影響力を行使できるとリー氏らは強調する。しかし中国は北朝鮮を支援する戦略的利益よりも、米国との関係を優先せざるを得なくなると予想する。

「中国の戦略目標は、米国を苛立たせて朝鮮半島の分断を維持することにある」とリー氏は語り、米国は引き続き中国と北朝鮮の両方に対し、軍事力の誇示を通じてあらゆる選択肢がテーブル上にあることを見せつけなければならないと言い添えた。

「北朝鮮を巡る状況では何よりも、中国が米国との関係に何を望むかが試される」とコリンズ氏。同氏によれば、米情報機関は現在、地域の主要国が北朝鮮の挑発にどう反応するかを観察し、北朝鮮が限界にどこまで近づく意図があるのか見極めようとしているという。


金氏が意図的に米国や韓国との戦争を始める公算は小さい。そうなれば自らの破滅を招くことはほぼ確実だからだ。それでも米国側と北朝鮮との緊張関係は今後も続くことが予想され、双方が誤算を起こすリスクは増している。

「韓国と北朝鮮の海軍は日々対峙(たいじ)している。今にも衝突が起きる可能性はある」とリー氏は話している。

2017.10.06 Fri posted at 12:08 JST