開花や発芽といった植物の成長に合わせて遺伝子の働きを制御する物質「植物ホルモン」について、複数あるホルモンがどこでどれぐらい分布しているのかを計測、コンピューター上で可視化することに成功したと、福井県立大の塩野克宏准教授らのチームが発表した。

 9月の米化学誌に掲載された。品種改良の効率化などに応用が期待されるという。

 植物ホルモンは、動物のホルモンと同じように、ごく微量で生理作用を引き起こす物質で、陸上の植物に広く存在している。これまで10種類程度が確認されており、量やホルモン間の相互作用によって、発芽や開花などの働きを調整する。バナナが熟す時期を調節したり、種なしのブドウを作ったりと、農作物の栽培にも応用されている。

 塩野准教授はイネの根腐れを防ぐとみられる植物ホルモン「アブシジン酸」の働きを調べようと、島津製作所(京都市)や大阪医科大(大阪府)などと協力。植物のかけらなどの試料にレーザーを当て、ホルモンから放出されているイオンを探った。この結果、アブシジン酸と、実がなるように促す「サイトカイニン」の分布と量を計測することに成功した。

 これは、ノーベル化学賞を受賞した同製作所の田中耕一さんが発見、実用化した「イメージング質量分析」の技術を、初めて植物ホルモンに応用した成果という。他のホルモンにも適応できるとみられ、植物ホルモンをさらに詳しく解明したり、品種改良に役立つように分子レベルの性質で植物を選ぶ指標に使ったりできるという。

 理化学研究所環境資源科学研究センターの篠崎一雄センター長(植物分子生物学)は「植物ホルモンがどこに存在するのかは間接的に調べられていたが、2種類を直接見られるのは画期的。様々な組織、条件で調べれば、研究の発展につながる」と評価している。(中田智香子)

http://yomiuri.co.jp/science/20171007-OYT1T50112.html
イネの根にある2種類の植物ホルモンの分布を可視化した画像(右)=県立大提供
http://yomiuri.co.jp/photo/20171007/20171007-OYT1I50030-1.jpg