福島県は、東京電力福島第1原発事故後に行ってきた県産米の放射性セシウムの全袋検査について、その体制を見直す検討を始めた。全袋検査は当初、消費者に「安全」をアピールするためだったが、最近は検査が逆に風評被害を助長しているとの声も上がる。事故発生から6年半以上が経過し、多額の費用をかけた検査の意義が問われている。(平沢裕子)

※「安心」のために

 国が行う放射性セシウム検査は、検査対象から一部を抜き取って調べる「モニタリング(監視)検査」が基本だ。福島県でもコメ以外の農水産物はモニタリング検査を実施している。平成28年度は510品目、2万1180点を検査。このうち基準値を超えたのは6点で、ほとんどが基準値以下だった。

 一方、同県が24年から実施してきたコメの全袋検査は、特注した測定装置でコメ袋(1袋30キログラム)のまま検査する。合格したコメ袋には「検査済み」のシールが貼られることで、消費者に「安全」をアピールする狙いもあった。

 県水田畑作課の二宮信明副課長は「コメの場合、同じ田んぼでも汚染度合いにばらつきがあり、モニタリング検査では基準値超のコメが出荷される恐れがあった。安心して福島のコメを食べてもらうには、全てを検査する必要があった」と説明する。

※2年間基準値超なし

 全袋検査で基準値を超えたコメは、最初の24年は71点(全体の0・0007%)あったが、翌25年は28点(同0・00025%)、26年は2点(同0・00002%)と減り続け、27年と28年はゼロだった。検査見直しの検討は、この結果を受けたものといい、対象は30年産以降のコメについて。29年産についてはこれまで通り全てを検査する。

 検査には多額の費用がかかっている。測定装置は県内173カ所に202台あり、1台約2千万円で計約40億円。検査場所までコメを運ぶガソリン代や人件費などに年間約60億円かかる。これまでかかった計約340億円に上る費用は、東京電力からの賠償金や国の補助金でまかなってきた。

 今後も検査を続ける場合は、装置のメンテナンス費用がのしかかる。今年と来年は部品の交換などで検査費用とは別に約12億円かかる見込みだ。さらに数年後、装置は耐用年数を迎えるが、買い替えの費用を誰が負担するのか。

※おいしさ伝えて

 当初は「安全」をアピールするのに必要と考えられた検査だが、最近は検査をすることで、逆に「危ないからまだやっている」とマイナスに受け止める消費者もいるという。

それでも、JAふくしま未来(福島市)米穀課の斎藤重泰課長は“商品価値”の観点から、「全袋検査をすることが取引の前提条件となっている。検査は農家にも大きな負担になっているが、取引継続のために当分は必要」と訴える。

 食の安全・安心財団(東京都港区)の唐木英明理事長は「費用をかけて検査を行う以上、県は費用対効果をしっかり検証すべきだ」と指摘する。その上で、「科学的には、食品の安全はモニタリング検査で十分に保たれるといえる。お金をかけるなら、検査と消費者の購買意欲の関係の有無を調査したり、福島のコメがおいしいことをアピールした方が効果的ではないか」と話している。

http://www.sankei.com/life/news/171016/lif1710160013-n1.html