裁判は名古屋地裁で係争中だが、加害者は現在も『無罪』を主張している。

鈴木さんは語る。

「『ゴミをひいたと思った、だからひき逃げではない……』十分な捜査もせずに加害者のそんな言い訳を鵜呑みにしてはならないということを、
現在進行中の刑事裁判の中ではっきりさせてもらいたいと思います」

同様のひき逃げ事件が多発
2016年3月には、名古屋市内で車をバイクに追突させ、被害者に大けがを負わせながらも逃げ去った弁護士が、
逮捕後、「バイクだと思わなかった」「酒は事故後に飲んだ」と供述している、という報道が流れた。

この弁護士は結果的に、自動車運転死傷処罰法違反(過失運転致傷)と道交法違反(ひき逃げ)の罪で起訴され、
昨年12月、名古屋地裁で懲役3年執行猶予4年を言い渡されたが、法律の専門家までもがこの手の言い訳をしていることに多くの批判が集まった。

実際に同様の供述で「ひき逃げ」の罪から逃がれようとする加害者は少なくない。
もうひとつのケースを上げよう。今年9月15日、千葉地裁で下された道交法違反(ひき逃げ)の判決は、被告人無罪というものだった。

この事故は2014年1月15日午前1時10分、千葉県長生村の村道で発生した。

ひき逃げされた消防局職員の男性(当時29)は、肺損傷などで死亡。その後、長生村職員の男性(40)がこの事故を起こしたとして逮捕された。

加害者は事故後、車を停止させて救護措置などを取らず、警察にも報告しなかったとして道交法違反で起訴されたが、
弁護側は「被害者はアスファルトと同化する黒色の着衣で、
職員(被告人)はマンホールのふたの影にしか見えなかった」つまり、加害者本人には人をひいた認識はないという理由で、無罪を主張していたのだ。

『人をひいたという認識があったかどうか?』

裁判ではこれが大きな争点となったが、千葉地裁の楡井英夫裁判長は、

「職員は車に相当強い衝撃を感じていたと推認できる。しかし、ゴミや木材、動物と認識し、人をひいたと認識していなかったと考えられる」

として、ひき逃げの罪は認めず、無罪判決を言い渡したのだ。

ちなみにこの加害者は、自分の車が死亡事故を起こしたことは認めているため、すでに自動車運転過失致死罪で罰金50万円の有罪判決が確定している。

この判決を伝える新聞記事の中には、次のような一文があった。

『無罪判決を受け、これまで公判の傍聴を続けてきた男性の母親は閉廷後、法廷の外で「息子を返して。その場で助けなさいよ。もう生きる力がない」と泣き崩れた。』(『千葉日報』2017.9.16)

「ひき逃げ」なのに「ひき逃げ」にならない理不尽
下記のグラフを見ても分かる通り、ひき逃げ死亡事故の検挙率はほぼ100%だ。

平成28年版 犯罪白書 第4編/第1章/第2節より引用