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プロジェクトX〜挑戦者たち〜  スバルの挑戦。奇跡のコストカット−無資格検査員の誕生

スバル首脳陣から、もっと効率よくコストカットをしろと迫られていた。 思案に暮れていたとき、社長は意外な事を言った。
「無資格者に検査をさせてみたらどうだろう」 工場長は戸惑った。 無資格者に検査をさせれば法律の意味がなくなってしまう。
「無理です。出来ません」工場長は思わず叫んだ。 「俺たちがやらずに誰がやるんだ。俺たちの手でやりとげるんだ!」

社長の熱い思いに、工場長は心を打たれた。そして、キモオタブルーの血が騒いだ。
「やらせてください!」それから、夜を徹しての無資格者検査が始まった。国の調査員の目をかいくぐる毎日だった。
しかし、簡単にコストカットは出来なかった。 工場長は、来る日も来る日もコストと戦った。
いっそ、マツダに転職すれば、どんなに楽だろうと思ったこともあった。 追い詰められていた。

そこへ社長が現れた。そしてこうつぶやいた。
「発想を変えるんだ。もっと幅広い人材を使えばいいじゃないか」そうだ。期間工だ。期間工とかパート主婦など人件費の安い連中にやらせればいいんだ。
暗闇に光が射した気がした。工場長は試しに期間工を呼びつけ検査をやらしてみた。期間工は検査の仕方が分からないので、ただじっと見つめるだけだった。
「これだ、これが探してた究極のコストカットなんだ!」法律を無視した無資格検査員の誕生だった。

社長と工場長と従業員は、工場の片隅で朝まで飲み明かした。 工場長は、充足感に包まれ、涙が止まらなかった。
「社長、完成した車で赤城山に叫びに行ってきてもいいですか」工場長は言った。
「ああ、いいとも。だが制限速度は守れよ。無資格者検査がばれたら大変だからな」 社長は自分のジョークに、肩を揺らして笑った。