環境省の絶滅危惧種のリストに入り、国内での生産が珍しい「ムラサキ」栽培に、農家や製薬会社などが乗り出している。ムラサキの根の紫根(シコン)は漢方薬の原料となり、肌の炎症や老化を抑える作用があるとされる。漢方薬の他、化粧品などに重宝される。現状では中国などの外国産が大半だが、希少な国産シコンで「地域再生の起爆剤」「商品の付加価値向上」を図ろうと、農家らは張り切っている。
山村再生へ商品化
 ムラサキに注目するのは、滋賀県東近江市君ケ畑町のまちづくり会社「みんなの奥永源寺」代表、前川真司さん(30)。圃場(ほじょう)は市の中心部から26キロ離れた、標高約500メートルの三重県境。冷涼な気候でムラサキの栽培適地だ。

 農薬や化学肥料を控えた栽培で、今年は7アールに1000本の苗を定植。だが、相次ぐ台風の接近で風雨による根腐れや倒伏が懸念され、圃場を通常より畝高にするなど手を尽くしたが、今年の収穫は難しいもようだ。

 前川さんが栽培に取り組んだきっかけは、非常勤講師として赴任した同市の八日市南高校でムラサキを守る活動に関わったこと。ムラサキは冠位十二階の最高位の濃紫(こきむらさき)など、高貴な色の染料として使われてきた。「希少性も魅力だが、万葉集に歌われた歴史にも引かれた」と振り返る。

 栽培に専念するため、2014年に地域おこし協力隊に転身。人口30人余りの君ケ畑町に移住した。地域再生を模索し、高収益が見込めるシコンを使った化粧品に行き着いた。

 薬品メーカーの協力で洗顔、化粧水、美容オイル、ハンドクリーム、乳液の5種類を開発。商品名は「MURASAKIno(むらさきの)」と命名した。発売は12月からで、今年度は1000万円の売り上げを見込む。東京や大阪など大都市圏での販売を予定する。

 前川さんは「地域に住む60歳以下は妻と私だけ。商品が売れれば地域に新たな雇用を生み、多くの若者が暮らせる地域になる」と力を込める。
大手企業 国産を有望視 
 日本漢方生薬製剤協会によると、14年度の国内でのシコン使用量は9605キロだったが、全てが中国産。国産を確保するのはかなり難しい状況だ。

 医薬品の他、化粧品なども製造する福岡市の新日本製薬は、山口県岩国市の研究所にある圃場でムラサキの栽培に乗り出している。ストレスを極力与えず収量の安定を目指すため、施設内で苗を筒に入れ育てる「筒栽培」を採用し、09年に栽培法を確立した。国産シコンのエキスを使った化粧品「パーフェクトワン」シリーズはヒット商品の一つとなっている。

 同社の関連会社、新日本医薬薬用植物研究所の吉岡達文特任研究員は「自社制シコンはトレーサビリティー(生産・流通履歴を追跡する仕組み)もできる。国産に価値を感じる消費者が安心して使える」と強調する。

 北海道当別町では12年からムラサキの栽培を開始。JA北いしかりなどが産地化に協力する。既に製薬会社や染め物業者に供給を始めている。(前田大介)

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国内ではあまり出回らない貴重な国産シコン(東近江市提供)
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前川さんが栽培したシコンを使い開発した化粧品「MURASAKIno」(滋賀県東近江市で)

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