福井県池田町池田中で今年3月、当時2年生の男子生徒が自殺した問題で、教員による厳しい指導が要因と結論づけた調査委員会の報告書が公表されてから29日で2週間が過ぎた。全校生徒50人程度の小さな学校で、男子生徒の苦しみはなぜ見逃されたのか。山間部の小規模校を取り巻く“しがらみ”や学力維持の重圧を指摘する声が聞かれる。

 ■目が行き届く

 男子生徒が通っていた池田中は昨年4月1日当時、全校生徒52人、教職員19人。各学年1クラスずつで2年生は21人だった。生徒同士は幼い頃から遊んで学び、ともに進級、進学していく関係だ。

 中学生の保護者の一人は「入学前に知り合いの母親から、先生がしっかり見てくれるから勉強は心配ないと聞いていた。実際、ちゃんと目が行き届いている印象があり、小さい学校で良かったと思っていた」と話す。

 2011年4月に2小学校が統合した同町には、小中学校が1校ずつしかない。両校とも「保護者は協力的で、苦情も少なく、やりやすい」という教員の意見が、報告書には記載されている。

 ■意見しづらい

 しかし事件後、調査委が行った保護者アンケートには、町教委や学校への苦情が多く寄せられた。「教員に関する要望をしても町教委が動いてくれない」など言いにくかった不満が噴出したかのようだ。ある生徒の母親は「役場職員や町と取引のある会社に勤めている保護者は(思うことがあっても)教職員や教委に意見しづらい」と、小さな町のしがらみを指摘した。

 事件を機に教育トップへの疑問も表出した。堀口修一校長は池田小中だけで計15年以上勤務。周囲からは「経験を積むため町外勤務もしたが、やはり池田が長い。あの生徒数で問題に気付かないのはおかしい」との声が聞かれる。

 内藤徳博教育長は2年前、同町職員から教育長に選任された。ある教育関係者は「教員経験がないと遠慮して学校に言えないこともあったと思う。教委と学校が話し合い、チェックし合う役割がうまく機能していなかったかもしれない」と推測する。

 報告書は男子生徒と副担任講師について、小学6年の家庭科でもこの講師に教わり、居残りをさせられたため家族に「嫌だと言っていた」と記述している。小学校の卒業でいったん離れたが、中学2年で国語の指導を受けるようになると、宿題の未提出などを巡り追い詰められた。

 事件後、数人の保護者から副担任の異動を求める声が町教委に寄せられたが、4月以降も替わることはなかった。

■プレッシャー

 同校は学力が常に全国トップクラスの福井県の中でも上位の成績を残している。堀口校長らは取材に対し「周辺に学習塾がないため、宿題など学校の指導で力をつけていくのが池田中の伝統」と話す。

 東京から池田町に移住した元東海大教授の伊藤洋子さん(74)は「それが現場のプレッシャーになっていたかもしれない。100人のうち一人の成績が振るわないのと、21人のうちの一人では状況が違う」と説明。生徒に合った指導が足りなかったと指摘されていることに「先生たちは忙しい。個性が違う子どもの人間性に目を向ける精神的なゆとりがあったか。そういう意味で責任は学校現場や教委だけではない」と強調した。

 自宅和室に設けられた祭壇には、あどけなさの残る遺影と男子生徒が好きだったお菓子や漫画、花が並ぶ。その前で遺族は「今の学校、教育のあり方のままではいけないんだと思う。あの子は命を懸けてそれを訴えたかったんだと思う」と力を込めた。

配信2017年10月29日 午前7時20分
福井新聞
http://www.fukuishimbun.co.jp/articles/-/254572