街頭でスリを警戒する大阪府警捜査3課の捜査員=大阪市北区で2017年9月
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2020年の東京五輪・パラリンピックや19年のラグビー・ワールドカップ(W杯)に備えて、大阪府警がスリ捜査の若手への技能伝承に力を入れている。スリの認知件数は減少傾向にある一方、大規模イベントで街中がごった返せば、国内のスリに加え、外国からのスリ集団が暗躍する危険が増すと警戒を強めているためだ。捜査手法は独特で、捜査幹部は「一人前になるには3年かかる。今のうちから若手を育てなければ」と話し、危機感をにじませている。【山田毅】

 9月下旬の夕方、大阪市北区の百貨店地下の食品売り場。捜査3課「すり犯捜査係」所属で、スリ捜査歴1年半の若手女性捜査員(30)は、作業服姿の白髪の男にさりげなく注意を払っていた。食品を見て回る様子でもなく、違和感を覚えたからだ。一方、上司で、近くにいたこの道12年の男性捜査員(45)はいち早くスリではないと見切りをつけた。「目が飛んでなかったろ」。現場から離れた所で女性捜査員にアドバイスした。

 スリ捜査員はベテランの「師匠」と若手の「弟子」が2人1組で一日中、街中を歩く。弟子は師匠の動きを見て技能を身につける。捜査員が最も注意して見るのは目線だ。男性捜査員は同行した記者に「目が飛ぶ」という独特の表現を小声で解説した。「カバンを狙うやつは目線が下に動く。『スリ眼(がん)』と呼び、見極めるには半年以上かかる」

 スリは現行犯逮捕が基本。スリ眼を見つけたら粘り強く尾行し、犯行に及ぶその瞬間を確保する。女性捜査員は「いつ相手が犯行に及ぶのか、その瞬間を感じて気付かれずに近づくのは難しい。体で覚えていくしかない」と話した。

 すり犯捜査係は別名「モサ」と呼ばれる。腕のあるスリ容疑者を捕まえる「猛者」が由来とされる。男性捜査員は「夕食にデパ地下のお総菜を買おうとか、百貨店で大事な人にプレゼントを買おうとか、そんな思いを踏みにじるのがスリ犯罪。『身近な幸せを守る』という思いでやっている」と力を込めた。

 苦労して技能を身に着け、毎日歩き回ってスリを捜す捜査員が報われるのは逮捕の瞬間だ。ただ、その瞬間は1カ月に1度あるかないかだという。捜査幹部は、スリが高齢化などを理由に引退し、数が減っていると背景を分析。警察庁によると全国のスリ認知件数は06年に1万3698件だったが、16年には3677件に減少している。

 警察庁の広域技能指導官として全国でスリ捜査を指導する府警の宮本光生警視(60)によると、過去には02年のサッカーのW杯など大規模な国際イベントに合わせてスリの動きが活発化し、外国人スリ集団が来日して検挙された例もある。宮本警視は「大規模イベント時に技術の低い捜査員を集めても検挙できない。育成には時間がかかるからこそ、技能伝承に力を入れる必要がある」と強調した。

配信2017年10月30日 15時00分(最終更新 10月30日 15時29分)
毎日新聞
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