特定の食品のラベルに見られる「遺伝子組み換えでない」の表示は、消費者を誤認させ問題であるとして、研究者団体と消費者団体がそれぞれ、消費者庁の「遺伝子組換え表示制度に関する検討会」に対して見直しを求める要望書を出した。食品メーカーなどからは現状維持を望む声も挙がる「でない」表示。検討会はどう決着をつけるのか、注目されている。 (平沢裕子)

遺伝子組み換え表示は、安全性が確認された組み換え食品について、消費者の「知る権利」「選択の権利」を担保するために平成13年に始まった制度。現在、組み換えの表示が義務付けられているのは、大豆やトウモロコシ、パパイアなど8作物と、それらを原材料とした豆腐や納豆、ポテトスナック菓子など33加工食品。

 消費者庁は現行ルールを見直す検討会を4月から5回開催。次回以降「遺伝子組み換えでない」の表示について検討される予定だ。

 この「でない」表示は、組み換え作物の使用が「ゼロ」という意味ではない。農場段階から分別管理されている非組み換え作物に、生産や流通の過程で「意図せず」に組み換え作物が混入することがあるが、この混入率が5%までなら「でない」と表示してもよいことになっている。

 混入しているのに、なぜ「でない」と表示してもいいことになったのか。元農林水産省職員で、組み換え表示の仕組み作りにかかわった公益財団法人「食の安全・安心財団」の中村啓一事務局長が説明する。「混入を認めないと、輸入の分別管理した非組み換え作物でも『不分別』の表示義務を負う可能性が高いが、事業者の多くは当時、消費者が嫌がるこの表示をしたくないと考えていた。混入を認めたことで、非組み換え大豆を使った豆腐や納豆を今の値ごろ感ある価格で提供できている面もある」

 この現行ルールに対し、消費者団体の日本消費者連盟(東京・西早稲田)が6月、また、農学研究者らで組織する日本農学アカデミー(東京・赤坂)が9月に、見直しを求める要望書を消費者庁に出した。

 組み換え作物について、消費者連盟は「多国籍企業による農業・食料支配の最大の武器」と問題視しており「反対」、アカデミーは「日本の農業のイノベーションと食料の安定供給に貢献する」とし「賛成」の立場だ。いわば対立する両者が、現行の「でない」表示は「消費者を誤認させ、選択の自由を阻害している」との点で口をそろえる。

 消費者連盟は「混入率をEU並みの0・9%未満に引き下げること」、アカデミーは「『でない』表示は組み換え成分がゼロの食品に限定すること」を、それぞれ求めている。組み換え作物を推進する立場にあるアカデミーが「混入率ゼロ」と厳格なルールを求めるのは、現行の「でない」表示によって「組み換え作物が安全でない」という誤解が消費者に広がっていることを憂慮するためだ。

 一方、検討会では事業者から「(ルール変更で)管理コストや物流コストが上がり、経営が成り立たない業者が出る」(豆腐メーカー)、「非組み換え作物の安定供給が難しくなる」(商社)など現状維持を望む声が挙がっている。また、消費生活コンサルタントからは「検証や現実的な監視は可能なのか」との意見も出た。

 食品の表示は、消費者が商品を選択する際に欠かせないだけに、正確であることが大前提だ。ただ、消費者庁は9月に加工食品に「原料原産地表示」を義務付けた際、原産国が複数にわたっていて国名を明示できない場合などは「国産または輸入」といった例外的な表記を認めた。これが消費者の誤認を招く可能性が指摘されている。

 組み換え作物の表示はどうなるのか。検討会は来年3月までに報告書をまとめる。

http://www.sankei.com/smp/life/news/171106/lif1711060034-s1.html
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