11/12(日) 9:40配信
朝日新聞デジタル

 山あいにある人口約1200人の宮崎県西米良村の投票率はここ10年、ほぼ9割を超える。昨年の参院選の投票率は全国の市町村で1位だった。なぜ高いのか……。衆院選投票日の10月22日に村を訪れてみた。

 今回の衆院選では、有権者1023人のうち、6割を超える629人が期日前投票を済ませていた。当日は台風21号の影響で大雨。それでも投票所には何分かおきに有権者がやって来た。午前10時、村じゅうに無線放送が響いた。

 「村所(むらしょ)80・82%、小川77・01%、越野尾(こしのお)77・27%……」。村内に八つある地区の中間投票率が伝えられた。全家庭にある村のテレビ電話の画面にも、投票率の数字が表示された。

 黒木義光副村長(67)によると、これまでがんなどの検診受診率が高い地区を表彰したり、イベント参加率を地区ごとに集計したりしてきた。投票日は1日4回、地区ごとの中間投票率を伝えており「対抗心を燃やす地区もある」と言う。

 村には高校がなく、中学を卒業すると住民票を村に残したまま村外に住む学生も多い。18歳が選挙権を得た昨年の参院選からは、村外の18歳以上の新有権者の親と本人に(1)期日前投票(2)当日投票(3)投票用紙を請求して不在者投票の方法がある、という通知を送る。そんな地道な努力で、昨年の参院選は91・13%と全国一の投票率となった。

 村中心部にある村所地区の投票所をのぞいた。知り合いの村職員に、ミカンやカキを差し入れする人もいた。投票率が高い理由を尋ねてみるが、みな考え込んだ。「説明のしようがないな」

 投票所で立会人をしていた村所地区長の国吉敏幸さん(62)は「村人はみんなお互い顔を知っちょる。誰がこんかったかも、わかってしまう」と分析する。投票に来ていた黒木信亨(のぶみち)さん(72)も「(投票)せんと外聞が悪い。なんか気持ちが悪いし」と話した。

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 村の中心部から車で20分ほど離れた板谷地区の投票所には、1日に3便しかない村営バスで来て、バスを待たせて投票していた高齢者もいた。役場職員と立会人6人が畳に座り、お茶やおやつを置いて雑談していた。投票所は午後5時までだが、午後1時には57人中54人が投票。残りの3人が投票に来ていない事情も大体わかるという。

 前回2014年の衆院選では同地区の女性の投票率は100%だった。村の職員は「誰も高くしようと意識してない。逆に、なんで都会の人は行かんのかが気になります」。過去に棄権し、後ろめたさを感じる村民もいた。立会人の板谷地区長の那須正(まさし)さん(62)は人生で1度だけ、病気のため投票に行けなかった。「選挙に行けなくてつらかった。候補者に申し訳なくて……」

 話を聞くうちに、「村には選挙が身近に感じられる雰囲気がある」という意見が出た。03年の村議選(投票率96・10%)では1票差で勝敗が決まった。役場の人手が足りないため、選挙となると村の青年団や委託したシルバー人材センターのスタッフが選挙の看板を立ててきた。村職員は「村外出身者もここに住むと行かないといけない気持ちになる」と話す。

 さて、今回の結果は……。西米良村は90・91%。朝日新聞が全国の市町村の投票率を調べたところ、1位だった有権者299人の新潟県の離島粟島浦(あわしまうら)村の90・97%にはわずかに及ばなかった。あと1人、投票していれば西米良村の投票率は91%になっていた。(河崎優子)

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20171112-00000019-asahi-pol