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【モスクワ=古川英治】ロシアがソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)を通じて欧米に情報工作を仕掛けているとの疑いが広がっている。2016年の米大統領選への介入に加え、欧州連合(EU)離脱を決めた英国やカタルーニャ州の独立問題に揺れるスペインへの攻撃疑惑が浮上した。欧米社会を分断し、政治を不安定化させる狙いが指摘されている。

 「ロシアは情報を兵器として使っている」。英国のメイ首相が13日、警戒をあらわにした。欧州各国の選挙への介入やサイバー攻撃の例を列挙し、「国際秩序にとって脅威だ」と語気を強めた。

 ガーディアン紙は、ツイッター上で400超のロシア発の偽アカウントが作成され、英国のEU離脱について3500回投稿されたとするエディンバラ大学の調査を報じた。最近もイスラム移民への憎悪をあおる投稿がSNSを通じて拡散されているという。英議会はフェイスブック(FB)など米SNS各社に調査への協力を要請した。

 スペインではラホイ首相らが「カタルーニャ独立問題をあおるツイッターの投稿の半分はロシア発だ」と発表した。ロシア発のフェイク(偽)ニュースを調査するEUの機関も、カタルーニャ独立の是非を問う国民投票に関してロシア語とスペイン語の偽ニュースが急増したと指摘している。

 14年のウクライナ侵攻を巡って欧米から制裁を受けるロシアのプーチン政権は欧米に対する「情報戦争」を強化。国営メディアを通じた偽情報の拡散と並行して、各国の親ロシアの政治家を利するためのネット上の世論工作を強めているとみられている。17年のフランスやドイツ、オランダの選挙にも介入したとの見方が多い。

 米国ではFB、ツイッター、グーグルがロシアによる介入の調査に乗りだし、一部が報告された。FBは米議会に事例を提出し、最大1億2600万の米国民がロシア発の偽情報を閲覧した可能性があるとの見方を示した。米議会が公表したFB事例では、民主党の大統領候補でロシアに厳しい姿勢をみせたヒラリー・クリントン氏をおとしめたり、人種間の対立をあおったりする内容が目立った。

 サイバー工作に対する欧米の反応も警戒論の一色ではない。米上院で開かれたSNS各社の公聴会では与党・共和党の議員から「規模はそれほど大きくなく、大統領選を揺さぶるのに十分ではなかった」といった意見が出た。スペインのカタルーニャ州の独立派も「ロシアの介入に助けてもらったわけではない」と反論する。

 ロシアの米大統領選介入疑惑への追及の手が強まるなかで、米ロ関係は一段と悪化している。ロシア政府は情報工作への関与を一切否定しているが、制裁が長期化するなかで、情報戦による欧米への揺さぶりを強めているとの見方がある。欧州外交官は「ロシアは外交ではなく工作に注力している」と指摘している。