話題の提案を行ったのは、岡山理科大学自然科学研究所教授である板谷徹丸氏をはじめとする地質学者だ。板谷氏は、「もともと岡山のこの辺りは、昔から地震が起きない地域として知られていました。2000年に発生した鳥取県西部地震の際も、震源からより遠い岡山市が震度5を記録したのに、それよりも小さかった。ただその理由について、誰も研究してこなかったのです」(週刊新潮、2017年9月28日号)と語る。

 今から約20年前、スポーツ施設建設のための地質調査で、吉備高原には3500万年前の礫層(小石の層)が見つかっている(礫層は比較的堅い地盤であり、都心で高層ビルを建築する際には、地下のこの層まで掘り進めて杭打ちの支持層とする)。さらに最近の研究で、この高原の地下には活断層がなく、かなり堅い岩盤でできていることが実際にわかってきた。そのため板谷氏は、吉備高原を大陸と同じ性質をもつ「長期安定陸塊(りくかい)」であると結論づけたという。



■これまで何度も潰されてきた首都機能移転

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『関東脱出! 本気で移住マニュアル』(イースト・プレス)
 実は第二次大戦後の日本では、首都機能移転論がたびたび提案されてきたが、すべて実現までには至らなかった。移転候補地としては富士山麓や浜名湖畔という案も出され、バブル景気で都心の地価が高騰した際も盛り上がりを見せた移転論だが、その後の地価の落ち着きや、移転に「絶対反対」の立場を貫く石原慎太郎氏が都知事に当選したこともあり、どれも立ち消えになった経緯がある。ところがその後、2011年に東日本大震災が発生すると、帰宅困難者をはじめとする大災害発生時のさまざまな問題点が改めて浮き彫りとなり、移転論が再度注目を集めるようになってきた。

 もちろん「岡山県を首都にする」という案も、今回唐突に浮上した話ではない。たとえば、2012年発行の『関東脱出! 本気で移住マニュアル』(イースト・プレス)では、福島原発事故と迫りくる首都直下地震の危険から逃れるため、関東地方から移住すべき最適な土地を考察しているが、移住候補先の第1位には「岡山県岡山市」が選ばれている。地震・津波・台風などの自然災害からもっとも縁遠い地域だから、というのがその理由だ。また、2014年の小説『首都崩壊』(著:高嶋哲夫)でも、首都機能移転先として吉備高原が選ばれる設定となっている。


■岡山県ではほとんど地震が起きない!?

 その吉備高原とは、岡山県の新見市・真庭市・岡山市・高梁市などを含む標高300〜700mのエリアで、昔から多くの町や村が発展していたが、高原の一部である吉備中央町には、吉備高原都市という計画都市もあり、さらに東端部(兵庫県南西部)には播磨科学公園都市というテクノポリス計画の拠点都市も位置している。つまり、単なる高原地帯ではなく、ある程度は首都機能を受け入れるための文化的土台が整っているといえる。

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過去100年、岡山県で震度3以上の地震は8回しか起きていない。 画像は、「気象庁震度データベース」より引用
 吉備高原を首都とする最大のメリットは、前述の板谷氏の提案のように、なんといっても昔から大きな地震がほとんど起きていない地域であるという点にほかならない。しかも、岡山県に面している瀬戸内海は津波が起きにくいばかりか、たとえ起きても高原は20km以上内陸に位置しているため被害の恐れがない。さらに原発は、最も近い島根原発(島根県)でも200km以上離れている。前述の『関東脱出! 本気で移住マニュアル』の共著者であるライターの小川裕夫氏は、「県内には活断層が3つしかありません。これは比較的地震が少ないとされる中国、四国地方のなかでも最も少ないです。実際、これまでに岡山が震源地となった巨大地震の記録もありません」(週刊プレイボーイ、2013年20号)と語る。

 この件については、筆者も独自調査に当たった。まず、アメリカ地質調査所(USGS)による過去100年間に発生した地震(M7.0以上)の震源マップを見ると、近畿地方から中国地方にかけては、ほとんど大きな内陸地震が起きていないことがわかる。また、気象庁が公開している震源データベースで、1923年以降に岡山県で起きた地震(震度3以上)を検索してみると、驚くことに8回しか起きていない。震度3以上といえば、東京都内の震源だけでも年20回以上も起きているほどありふれた地震だ。それにもかかわらず、岡山県では地震が起きても10年に一度、しかも震度4以上に至っては“皆無”という驚くべき状況なのだ。