北朝鮮に寄港した疑いのある貨物船の入出港を許したことは日本の独自制裁に「抵触」(菅義偉官房長官)しており、違法の見逃しは北朝鮮包囲網のアリの一穴になりかねない。国際社会が北朝鮮籍船にとどまらず、北朝鮮に寄港した船舶にまで入港禁止措置の対象としているのは、北朝鮮の外貨獲得に海運が大きな役割を占めているという現実があるからだ。

 核、弾道ミサイルの開発原資や、政権維持に必要な統治資金として多額の外貨を必要とする北朝鮮では、自国製の兵器や資源などの輸出、開発資機材の輸入で船舶輸送が生命線を握っている。

 こうした観点から日本は米国とともに国連安全保障理事会で制裁を強化する決議がなされる都度、主導的な役割を果たしてきた。ただ、北朝鮮の国際海運に対する監視・取り締まりの実際場面では根拠法の未整備などもあり、国連北朝鮮制裁パネルなどの専門家からは日本の取り組み不足が指摘される。

 2013年7月、ミグ21戦闘機など大量の兵器を運搬していた北朝鮮貨物船をパナマが拿捕(だほ)した事件で、船舶の所有者だった「オーシャン・マリタイム・マネジメント(OMM)」(本社・平壌)の事業に密接に関連する香港企業の経営者として日本人の男が浮上。だが、この男に対し、日本政府は刑罰はおろか旅券没収などのペナルティーも科していない。

 千葉港での入出港見逃しについて、菅官房長官は会見で「国際社会と連携して北朝鮮に圧力を強化する中、断じて許すことはできない」と発言。政府が問題視するのは、対北朝鮮制裁の旗振り役の日本自身が、北朝鮮海運への監視・取り締まりにおいて、本気度を疑われかねないからでもある。

 北朝鮮は在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)を置く日本を大きな工作拠点としてきた。これまで、朝鮮総連やその構成員が関与するなどし、化学兵器サリンの生成に使われる化学物質や核・ミサイル開発関連機材、鋼材などが日本から輸出され、日本は北朝鮮の「物流倉庫」(朝鮮総連元活動家)だった。

 今回、問題の貨物船は3日に千葉港に入港。貨物船側が報告した寄港歴のある10港に北朝鮮の港はなく、千葉海上保安部は入出港を許可。千葉県警水上警察隊員が北朝鮮に寄港した可能性があることを把握したが、法律違反との認識はなく、情報共有は遅れた。船は予定通り13日に出港し、県警が海保に連絡したのは翌14日だった。船員は千葉県警の任意の事情聴取に「1月と2月に1回ずつ、北朝鮮の羅津(ラジン)港に寄り、それぞれ石炭を数万トン積んで中国に運搬した」と話したという。

 見逃しの一因は、貨物船が千葉港内の民間企業のバースに入港、海保の範囲外だったこともあるとされる。県警は、海保が回らない民間バースへの入港船舶への立ち入りで、北朝鮮への寄港歴がある船舶を発見した。警察庁では「確認態勢に穴があったことは率直に反省し、万全の対策を構築する」(幹部)と受け止めている。

 核を搭載した大陸間弾道ミサイルの開発が目前とみられる中、北朝鮮をめぐる海運への監視・取り締まりの実効性を高める法律や組織の充実は喫緊の課題となっている。(加藤達也、川畑仁志)

配信2017.11.27 06:16
産経ニュース
http://www.sankei.com/affairs/news/171127/afr1711270003-n1.html

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