http://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-42063332

ゴードン・コレラ安全保障担当編集委員

1940年代後半、軍人らしい姿勢で、きれいに整えた口ひげをたくわえ、薄くなった髪の上に山高帽をかぶった初老の男性が、ロンドンの官庁街ホワイトホールの22番地に向かって歩いていた。

ここには当時、銀行があった。目立たない、軍人だけが使う場所だった。現在この建物は内閣府の一部だが、当時の「ホルツ」という銀行名が、今でも扉の上の石に刻まれている。この男性は「キャプテン・シオ・スペンサー」という名前で通しており、自分の銀行口座の一つから預金を引き出していた。

男性はその後、ホワイトホールを歩いて戻り、ブロードウェイ54番地にある自分の事務所に向かった。「シオ・スペンサー」が男性の本名でなかったことを示す手掛かりは、彼の行き先にある。

この事務所は「MI6」として名高い英情報機関の本部だった。男性は実はMI6長官のサー・スチュワート・ミンギスで、コードネーム「C」とだけ呼ばれることが多かった。

ミンギス長官の銀行口座の情報がこのほど新たに明らかになり、MI6の活動内容と中東での英国の役割をめぐり、新事実が浮かび上がっている。

ミンギス長官は1952年、財務省と外務省の最高幹部職員2人と面談し、とある内容を告白した。

この面談の驚くべき記録を発見したのは、ノッティンガム大学のローリー・コーマック博士。博士が英国立公文書館で発見した文書の内容が、BBCラジオ4の歴史調査番組「ドキュメント」の調査の基礎となっている。

MI6の過去資料は非公開だが、この文書は内閣官房長官の秘密かつ個人的資料のうち、このほど機密指定が解除されたものに含まれていた。

「相続した財産について(ミンギス長官は)衝撃的な情報を口にした」とコーマック博士は説明する。
ミンギス長官は当時、MI6の長官職を後任にまもなく引き継ぐ予定で、政府幹部に知らせておくべきことがあるという考えだった。

長官は10年近くの間、「非公式の積立金」として知られるようになった口座を管理していた。実質的には、長官個人の機密資金だ。

これが情報部のことだという前提に立っても、機密資金口座の存在は外部に知られてはならないものだった。そして実際、誰も知らなかった。「財務省も外務省も。当然ながら閣僚たちは知らなかった。MI6そのものの財務責任者でさえ知らなかった」とコーマック博士は説明する。

財務相の事務次官、サー・エドワード・ブリッジズは会議でミンギス長官に対し、その銀行口座と積立金の全額を尋ね、額が大きければ説明責任を問われる可能性があると説明した。
MI6予算は議会の秘密議決によって決定し、外相の政治的統制下にある。

「外務省の事前同意がないまま、『C』が非公式の積立金を利用すれば、外務省が承認していない政策を外務省が承知しないまま実行できてしまう。明らかにこうした事態が起きる可能性は低いが、予防策をとらないのは間違いだ」 今回公開された資料にはこう書かれている。

ミンギス長官は、「非公式の積立金」が80万ポンドに上ると説明したが、後にそれは控えめな金額だったことが明らかになる。実際の額はその倍近くの140万ポンドで、現在の価値では3900万ポンド(約60億円)以上に相当するという試算もある。
(リンク先に続きあり)

(英語記事 MI6's secret 'multi-million pound' Cold War slush fund)

2017/11/27