毎日新聞 2017年12月6日 西部朝刊
https://mainichi.jp/articles/20171206/ddp/008/020/021000c

 旅行大手のエイチ・アイ・エス(HIS)グループで電力小売り事業を手掛けるHTBエナジー(長崎県佐世保市)は5日、関東で都市ガス小売り事業に来年4月から参入する方針を明らかにした。電力小売り顧客の半数以上を占める関東で電気とセット販売して顧客拡大を狙う。HTBエナジーは1月にもガス小売事業者の登録を関東経済産業局に申請する見通し。【浅川大樹】

 都市ガスは他社との提携で調達する方向で調整しており、都市ガス単独で低価格を実現するのは難しいが、独自プランのある電力とのセット販売で差別化を図る。電力小売りの顧客基盤がある関東での都市ガス販売を想定しているため、販売エリア拡大は現時点で想定していないという。今年11月に東京都新宿区に新設した電力販売の営業拠点を都市ガス販売にも活用する。

 HTBエナジーはハウステンボス(HTB)の子会社で、会長は沢田秀雄HIS社長。昨年4月、電力小売り全面自由化スタートに合わせ、全国で家庭向け電力の販売を始めた。大手電力の従来料金より一律5%割り引くプランや、1日2時間だけ電気料金が無料となる時間帯を設けたプランを提案。現在は単身世帯やファミリー世帯など約7万件の顧客を獲得しており、2017年9月期の単独決算で売上高は前期比8・5倍の48億7000万円だった。18年9月期は売上高100億円を目指している。

 HTBエナジーの早坂昌彦代表取締役兼最高技術責任者(CTO)は「電力小売りの顧客から都市ガス小売りを求める声があった。電気とのセット契約で顧客の支払い手続きも簡素化できる」としている。

障壁打破、モデルに

 都市ガス小売り全面自由化を巡っては、新規参入が全国的に低調だ。資源エネルギー庁などによると、家庭向けの都市ガス販売は自由化から8カ月となる今年11月末時点で、九州電力や関西電力など大手電力4社とLPガス事業者3社の計7社にとどまる。1年早く全面自由化した電力小売りの新規参入業者は自由化8カ月で200社近くに上り、企業の動きは対照的だ。

 背景の一つに都市ガス調達の問題がある。送電線が全国に張り巡らされている電力は卸売市場が整備されている一方、都市ガスを送るために地下に埋設された導管は各地につながっていないため卸売市場がない。都市ガス参入事業者は調達手段をいかに確保するかが課題で“参入障壁”となっている。

 HTBエナジーが都市ガス小売り事業に参入すれば、消費者にとって契約先の選択肢が増えることになり、今後参入する企業のモデルとなる可能性もある。【浅川大樹】

家庭向け都市ガス小売り事業に新規参入した企業

<大手電力>

東京電力エナジーパートナー(関東)▽中部電力(中部)▽関西電力(近畿)▽九州電力(九州)

<LPガス>

河原実業(関東)▽サイサン(同)▽レモンガス(同)

 ※資源エネルギー庁の10月の資料などを基に作成。かっこ内は参入エリア