https://www.kobe-np.co.jp/news/tajima/201712/sp/0010834518.shtml

 「マツバガニ」と聞いて、兵庫県但馬の皆さんは何を想像するだろう。ほとんどの人が、冬の日本海で取れる、あの足の長いズワイガニを思い浮かべるはずだ。しかし、ふとインターネットで検索してみると、画面に現れたのは、全身にとげをまとった攻撃的な甲羅を持つ生き物。なじみのマツバとは似ても似つかない姿だった。「なんだこいつは」。その正体を調べてみた。(秋山亮太)

 まず、親しみのあるズワイガニをいま一度紹介しよう。但馬ふるさとづくり協会が発行する「但馬検定」のテキストブックによると、山陰地方ではクモガニ科に属するズワイガニの雄を「松葉ガニ」と呼ぶ。マツが葉を落とす冬に旬を迎えることや、生の身を冷水につけるとマツの葉のようにほぐれることなど、その名前の由来は諸説あり、福井県では地名を表す「越前ガニ」とも呼ばれている。つまり松葉ガニは愛称だということだ。

 ではいよいよ、ネット検索で現れた「マツバガニ」を探ってみる。但馬漁協(香美町香住区)販売課の山田正孝さん(53)に聞いた。「え、ズワイガニじゃないマツバガニ?」と驚いた様子。30年以上勤めているが、初耳だという。

 約100年の歴史がある「おけしょう鮮魚」(豊岡市城崎町湯島)の桶生裕介社長(41)は「名前は聞いたことあるよ」と答える。しかし見たことは一度もないといい、「言われてみればどんなカニか気になるね」。地元関係者でも真相を知る人はほとんどいないようだ。

 「日本動物園水族館協会」のインターネットサイトで、マツバガニを飼育する施設を検索してみた。出てきた施設は全国でたったの6件。そのうち、今も飼育しているという高知県立足摺海洋館に聞いた。よくある質問のようで「ああ、マツバガニですね」とすぐに答えが返ってきた。

 同館によると、とげの多いマツバガニはオウギガニ科の仲間で、正式な和名が「マツバガニ」という。高知県では、足摺沖の水深100〜150メートルで行われるサンゴ漁で時々水揚げされるが、まとまった数が取れず市場には出回らないため、知名度も低いのだとか。同館の担当者も「ズワイガニの俗名の方が一般的には有名」と話していた。

 「まつばがに」と呼ばれるカニが2種類いる理由。そこには“本家”の存在感が薄すぎたために、俗名の「松葉ガニ」を名乗るズワイガニに主役を奪われるという、人間の世界でもありそうな悲劇の物語が隠されていた。

 最後に一つ、気になったのが本家マツバガニの味だ。足摺海洋館は「海外では食用にされていると資料にはある」というが、実際の味は分からないという。機会があればぜひ一度、2種類の食べ比べをしてみたいものだ。

日本では知名度の低い“本家”マツバガニ(高知県立足摺海洋館提供)
https://www.kobe-np.co.jp/news/tajima/201712/img/b_10834519.jpg
関西などではこちらがおなじみ。冬の味覚ズワイガニの雄「松葉ガニ」=豊岡市城崎町、おけしょう鮮魚
https://www.kobe-np.co.jp/news/tajima/201712/img/b_10834520.jpg