2017年10月、神奈川県座間市で発覚した衝撃の死体遺棄事件――。切断された男女9人の遺体がアパートの一室に隠されていたことが報じられると、あっと言う間に特定され、事故物件公示サイトの「大島てる」の事件現場のアパートの記録に書き込まれた。そして、殺人や自殺、火災などにより人が亡くなった物件、いわゆる「事故物件」そのものにも改めて注目が集まった。

小田急線の最寄駅から徒歩10分ほどの距離にある現場アパートは今、どうなっているのか。日刊スポーツ(12月15日付)によれば、12月14日にアパートの慰霊祭が行われ、事件現場となった部屋以外にも空室だった一部屋(家賃1万9000円)の募集が始まると伝えている。報道がこれだけ過熱すると、アパートが丸ごと事故物件と化していると言っても過言ではないはずだが、まだ住み続けている人もいるようだ。今後、このいわく付きのアパートに果たして、どんな住人が住むことになるのか気になるところだ。

私は、2016年にその名も『事故物件めぐりをしてきました』(彩図社)という本を上梓し、数年にわたって取材した家族間殺人や孤独死などが起こった物件に関する裏話を紹介した。この取材の中では、事故物件に住む人々に話を聞く機会にも恵まれた。今回は、事故物件に住む人々にスポットを当て、なぜ、事故物件に住むのか考えてみたい。(ノンフィクション・ライター、菅野久美子)

●中央線の某有名駅で「相場の半額」

なぜ事故物件を選ぶのか。まず、一番大きな動機として誰もが思いつくのが、その価格の安さではないだろうか。

「メンタルに絶対の自信があれば、コスパを優先する人には事故物件は超お勧めです。私がいたところは住み心地も良くて最高でした」

フリーターの菊池寿明さん(仮名・35歳)は、得意気にそう語った。菊池さんは先住者が首吊り自殺した後、1か月も発見されず放置されていたという部屋に3年間住んでいた。最寄りは中央線沿線でも人気の某駅。友達も多く住んでいることから、どうしてもこのエリアの近くに住みたくて仕方がなかった菊池さん。月5万円以内という条件で探していたが、その条件では、風呂なしのボロアパートしか出てこない。

そこで発想を転換して、思い切って「事故物件ありませんか」と不動産屋に尋ねてみた。すると、出てきたのが、「駅から徒歩4分、築15年、1K7畳、家賃4万5000円」という破格のマンションだった。同じ物件であれば相場は7万5000円〜8万円というからほぼ半額である。しかも、初期費用として通常ならかかる礼金はなしで、敷金だけでいいというから驚きである。

不動産屋が言うには、遺体の体液がフローリングの下にまで染み込んでいたため、床も壁紙も総取り換えして、フルリフォームしたらしい。そのため、部屋中どこを見回しても、異様なくらいピカピカだったことが、今でもやけに印象に残っているという。

●事故物件で新婚生活

望んで入居した菊池さんだったが、さすがに引っ越して約1か月間は「何か霊でも出るのではないか」とビクビクしていたそうだ。「ピキッ」という天井の木材が軋む音がいちいち気になったりもしたが、それも最初のうちだけで、「長く住めば住むほど、事故物件であることは気にならなくなった」と言う。

結婚後は、妻となった女性もこの部屋で新婚生活を送った。しかし、妻の妊娠が発覚後、さすがにそのまま単身用のアパートで暮らすのは手狭だろうと、なくなく引っ越すことになったが、事故物件の安さと快適さが忘れられず、現在もファミリー向けの事故物件を探しているという。

菊池さんのように、事故物件であるということを気にさえしなければ、事故物件はかなりお得な買い物だと断言できるだろう。なお、独立行政法人のUR都市機構の場合だと、人が亡くなった住宅を「特別募集住宅」として、次の入居者を募っており、通常1年間、または2年間家賃が半額に割り引かれる(※物件によって異なる)。

>>2以降に続く

配信2017年12月27日 08時59分
弁護士ドットコム
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