年々深刻になる地方の「空き家」問題。だが、最近はすでに田舎から都市部近郊に超してきた世帯の空き家が増え続けているという。
「両親もまだ元気だからウチは関係ない」では済まされない。いざ実家が空き家になって放っておけば大変なことになるのだ。
オラガ総研代表取締役の牧野知弘氏が警告する。

 空き家といえば、多くの人が思い浮かべるのが、すでにぼろぼろになって誰も住むことができないような「あばら家」かもしれない。
確かに現在社会問題としても盛んに取り上げられている空き家問題を語る場合、こうした「あばら家」を対象とするケースがほとんどだ。

 しかし実際には空き家のほとんどは「あばら家」ではない。親が亡くなる、あるいは高齢者施設等に入居し、
家に戻るあてもないままに「とりあえず」空き家となっているものが実は大多数を占めているのが現実だ。

 これまでの空き家問題はどちらかといえば地方から大都市に出てきた人たちが、親の亡くなった後の実家の取り扱いに悩むというのがテーマだった。
しかし、地方は近所のてまえもあるので、とりあえずそのままにして、ときたま戻って管理する程度、税金もそれほどの負担ではないのでそのまま放置するというのが典型だった。

 ところがこれからは、地方から大都市に出てきた人たちが買い求めた大都市圏近郊のマイホームで育った団塊ジュニアたちが、実家の扱いで悩む時代になる。
団塊世代も2023年以降は後期高齢者に突入する。これからは大都市圏郊外が大量相続の舞台となる。

 団塊ジュニアの多くは都心のマンション居住。夫婦共働きで子供を保育所などに預けて通勤するスタイルが主流である。
そんな彼らにとって親が買い求めた大都市圏郊外の実家に住む予定はない。夫婦共働きで都心まで長時間の通勤を強いられることには耐えられないからだ。

 彼らの親たちが買い求めた郊外の家の多くはいわゆるニュータウンと言われる丘陵などを切り崩した住宅地が多い。
敷地面積も狭く、家と家の間隔は狭い。空き家にして数か月も経過するとあっという間に隣近所からクレームが来る。
植栽が伸び放題になって、隣地に跨るためだ。数か月に一度草木の剪定を行う必要が出てくる。

 ニュータウンの多くがもともとは人が住んでいない丘陵地などであるので、人が住まなくなれば野生動物などが戻ってくる
。タヌキやイノシシ、ハクビジンなどの野生動物が居つく、庭に糞をするなどでこれも近隣からのクレームの対象となる。

 最近は空き家に対する放火と思われる火災で隣家に類焼した責任を家主が負担する判決事例も出た。損害保険への加入は必須だ。

 固定資産税も地方であれば年間数万円程度で済むはずが、首都圏郊外ともなれば年間で15万円から20万円はかかる。
家の維持が面倒だからといって建物を解体更地化してしまうと、住宅にのみ特別に認められた固定資産税評価額の減免措置がなくなり、
土地に関する固定資産税は敷地面積が200平方メートル以下の場合には6倍に跳ね上がってしまう。

 家は住まないと傷みが早いといわれる。とりわけ木造家屋は湿気などがこもりカビが発生する。
外壁塗装や屋根の葺き替えを定期的に実行していないと雨漏り等の原因となる。こうした修繕維持コストもそれなりにかかってくる。
 これだけいろいろな面倒やコストがかかるのだから、賃貸に出すあるいは売ればよいという結論になってもそう簡単ではない。

 ところが、特にニュータウンあらためオールドタウンになると、借り手を見つけるのは至難の業だ。

 親たちは自分で買ったマイホームからせっせと会社に通勤してくれたが、そもそも借りてまで住みたいという奇特な人にはお目にかかる可能性は低い。
夫婦共働きの自分が住むつもりもない家を、自分たちと同世代以下の人たちが喜んで買うと考えるのは、頭の中がいささかお花畑だ。

 こうした状況の悪化を見越して先手を打つことはできるのだろうか。残念ながらあまり妙案はない
。少なくともいざ相続が発生した時になるべく早く「貸す」なり「売る」の行動に移れるように準備しておくことである。

 つまり家財道具などは親に頼んでなるべく処分しておいてもらうことだ。
隣家との境界や権利関係などでもめ事がある場合には今のうちに解決しておくことも肝要だ。
 またこんなことはまだ元気でいる親に言うべきことではないのかもしれないが、実家の相続は相続人を1人にしてもらうことだ。
「家は財産だから兄弟仲良く均等に」などと考えてもらっては困る。