制限だけでは医療崩壊

 医療現場の長時間労働問題を考える医師らのグループが、若手医師や医学生を対象に実施したアンケートで、労働時間の上限基準が守れていないと感じている医師が7割に上ることが明らかになった。人手不足などが要因で、現場からは「疲れていては医療の質も保てない」と悲鳴が上がる。一方で「若手が働かなければ誰が働くのか。仕事量を減らさず、時間だけを制限すれば医療崩壊につながる」との声もあり、苦悩する医師らの姿がうかがえる。【古関俊樹】

医師の長時間労働は、一昨年1月に新潟市民病院で37歳の女性研修医が過労自殺するなど大きな問題となっている。政府は働き方改革で残業時間の上限規制を検討しているが、医師には原則診療を拒めない「応招義務」があるため、規制のあり方の検討が必要だとして適用を5年間猶予する方針を示している。

 アンケートをしたのは、東京などの若手医師を中心とするグループ。厚生労働省の有識者検討会で進む医師の働き方についての議論に同世代の意見を反映させようと昨年11月、大学卒業後10年以内の医師と医学生を対象にインターネットで調査を実施。約2週間で約800人から回答を得た。

 調査結果によると、労働時間の上限基準について医師の約77%が「守るべきだ」と答える一方、現状について約71%が「守れていない」と回答した。理由では、業務量の多さや人員不足など医療体制の問題に加え、長時間労働を美徳とする医師の慣習を挙げる意見があった。残業や休日勤務などを取り決める労使協定(36協定)などのルールについては、医師も医学生も6割前後が「理解していない」と回答した。

 調査では900件を超えるコメントも寄せられた。「疲労を少なくすることで質の高い医療を提供できる」と長時間労働の是正を求める声の一方、「時間を規制されて技術が向上する機会を奪われる方が嫌」という意見も。「残業している方が評価されやすい」と現場の雰囲気を問題視する声も多かった。

 グループは調査結果を踏まえて「『壊れない医師・壊さない医療』を目指して」と題する提言書をまとめ、先月22日に有識者検討会に提出した。国民や行政、医師会などが協力して長期的な目標を設定し、医師が労働基準法を守れるような環境を段階的に実現していくよう求めている。

 提言書の取りまとめで中心となった東京大大学院医学系研究科の医師、阿部計大さん(35)は「若手医師が国民の健康を第一に考えながらも、自身の健康状態が患者に及ぼす影響などに大きな危機感を抱いていることが伝わってきた」と話した。

寄せられたコメント(抜粋)

・救急外来の呼び出し、患者の急変など自分ではコントロールできない業務がある(外科男性)

・自主的に、休日に患者の回診をすることが暗黙のルールになっている(小児科男性)

・医師は24時間365日働くものだと考えているベテラン医師、患者が存在する(内科男性)

・気合とプライドで乗り切れるとみんな思っている雰囲気がある(麻酔科女性)

・若手が働かなければ誰が働くのか。仕事量の軽減を考えずに時間だけを制限すれば医療崩壊につながる(救急科男性)

・病院にいてこそ症例が拾える面がある。オンとオフを区別することが重要(整形外科女性)

・医師も家族を持つ一人の人間。自分を大事にできなければ患者さんも大事にするのは難しい(総合診療科男性)

・自分が患者なら、寝不足で判断力が低下した医師の治療を受けたくない(眼科男性)

配信2018年1月10日 14時30分 
毎日新聞
https://mainichi.jp/articles/20180110/k00/00e/040/286000c