東芝の不正会計が発覚して以降、企業のガバナンス強化は進んだのか。東京商工リサーチによると、2017年に不正会計を開示した企業は53社(53件)で、高止まりしている。特に東証1部上場企業が大部分を占め、今後はさらに増える可能性があるという。どうして「不正会計」は減らないのか。

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 東京商工リサーチによると、2017年に「不適切な会計・経理(以下、不適切会計)」を開示した上場企業は53社となった。前年比で4社減だが、同社が調査を開始した2008年(25社)から、10年間で2.1倍に増え、高水準を維持しているのだ。

 不正会計が減らない背景には、2015年5月に発覚した「東芝事件」の影響が大きいという。商工リサーチ情報本部の松岡政敏氏は

「東芝事件の後、企業のガバナンス強化やコンプライアンス意識は厳しくなり、監査法人の姿勢も大きく変わったのは間違いない」

と指摘する。

「担当するクライアント企業で株主代表訴訟でも起きてしまうと、監査法人の信用に関わる問題に発展します。そのため国内はもちろん、以前はくわしく調査されていなかった海外子会社にも資料を出させるなど、枝葉末節までしっかり見るようになっている。そのため、特に一部上場企業で誤謬、いわゆるミスが発覚するというケースが増えているのです」

 東芝の不正を見抜けなかった、業界大手の新日本監査法人でクライアント離れが進んだのも記憶に新しい。それだけ東芝事件が与えた影響は大きかったのだ。

■「誤り」が最多の28社

 53社が開示した不正会計の内容を見ると、経理や会計処理ミスなどの「誤り」が28社(52.8%)で最も多く、次いで、架空売上の計上や水増し発注など、営業ノルマの達成を推測させる「粉飾」が14社(26.4%)と続く。

 また、子会社・関係会社の役員や従業員による着服横領は11社(20.7%)で、会社資金の私的流用、商品の不正転売など、個人の不祥事についても監査法人が厳格な監査を求めた結果が表れているようだ。

■東証1部が30社でトップ

 そして、市場別に見ると「東証1部」が30社(56.6%)と最多で、富士フイルムホールディングス、亀田製菓、三菱食品、東武鉄道、出版社の昭文社、ユニ・チャーム、王子ホールディングスなど。2013年ごろまではジャスダックやマザーズなどの新興市場の不正会計が目立っていたが、15年以降は東証1部の増加が大部分を占めるようになっている。

 今後はどうなるのか。金融庁は2017年7月、企業と監査法人とのなれ合いを断ち、厳格な監査を促すため、監査法人を定期的に交代させる「ローテーション制度」導入について検討をスタートした。さらに、日本公認会計士協会は職業倫理に関する規則の厳格化を打ち出し、19年4から会計士は監査を請け負う企業で違法行為を発見した場合、監督官庁などへの通報が義務化される。これらの動きから、今後はさらに不正会計の開示件数は増えていくだろうと前出の松岡氏はみている。

「どんなに規則ができても、企業側の会計倫理が向上しないと絵に描いた餅になりかねない。さらに、不正や横流しを誘発する無理な営業ノルマや過度なプレッシャーを見直し、社員の働きやすい環境、風通しの良い組織を整えない限り、不適切会計が繰り返される可能性は残ります」(松岡氏)

 会計士の努力やモラル頼みでなく、不正を起こさない内部告発など企業の仕組みづくりも必要だ。

【図表】全53社の一覧はこちら
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2018.2.1 07:01
AERA dot.
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