不正請求はびこる接骨院、暴力団の資金源にも
動き始める健保組合、運用次第で療養費は3割減  


昨年11月に暴力団組長らが詐欺容疑で逮捕された接骨院の療養費不正受給事件。
以前から、接骨院業界は不透明な保険請求が蔓延しており、暴力団に目を付けられた。
タレント医師が関与する同種の事件も起きており、問題の先送りはもう許されない。
「何だ、これは?」――。昨年9月、東京都に本社を置くA社の健康保険組合の担当者は、都内の整骨院(接骨院)から提出された2枚の療養費の申請書類を前に、思わず首を傾げた。 
整骨院や接骨院は、国家資格を持つ柔道整復師(柔整師)が施術に当たる。特定の療養には健康保険が適用され、保険から療養費が支払われる。 
2枚の申請書は、何れもA社の被保険者である佐藤美代さん(仮名)の4月分の請求で、1枚は東京都渋谷区のX整骨院(実際は“X”の部分に人名が入る)が、
もう1枚は渋谷区の別の地にあるX整骨院の支店が作成していた。不可解なのはその中身。
店舗は異なるにも拘らず、負傷名・負傷年月日・施術開始&終了年月日・施術日・請求金額等、施術の内容欄は全く同一だったのだ。
この書類を見る限り、佐藤さんは左膝と右足首の捻挫で、4月に計10日間に亘ってX整骨院とその支店に通院して、其々の店で施術を受けていたことになる。
だが、それはあり得ない話だった。佐藤さんは埼玉県在住・在勤。捻挫しながら、通勤ルートに関係なく、電車で1時間半近くかかる渋谷区の、
しかも離れた場所にある2ヵ所の整骨院に通院するとは考え難い。健保担当者のそうした読みは的中した。
佐藤さんにヒアリングしたところ、実は過去に一度も整骨院にかかったことは無く、X整骨院も支店のことも知らなかった。捻挫の事実も無かった。
本人の健康保険証と自宅住所の情報がどこからか漏れて、知らぬ間に架空請求されていたのだった。
療養費は原則、患者が一旦全額を払い、後で自己負担分を除いた金額の返還を自ら保険者に求めることになっている。
だが、接骨院や整骨院については、患者は自己負担分だけを支払い、残りの費用を柔整師が患者に代わって保険者に請求する“受領委任払い”も特例で認められている。
受療委任の場合、柔整師は保険者に療養費を代理請求する為、申請書には患者本人の署名が必要となる。
だが、佐藤さんの申請書ではそれも偽造されていた。