東京・五反田が急成長するスタートアップ企業の集積地になりつつある。起業の街・渋谷より3割程度安いオフィス賃料と交通の便が魅力で、渋谷から移る企業も相次ぐ。事業拡大で街を去る企業が出ても、新たな起業家が次々に集まってくる。かつてソニーを生んだ雑多な街は、若い企業の交流と新陳代謝で新たな価値観を育んでいる。

■わい雑な街、むしろ魅力

 「だだっ広い倉庫を安く借り、好きなように改造してクリエイティブな空間を作る。米西海岸的なオフィスづくりができるのは都内でもここしかない」

 飲食店予約台帳システムのトレタの中村仁社長(48)は3年前の新本社選びの際、40年以上にわたって五反田の顔ともいえる物件「TOCビル」に一目ぼれした。オフィス面積は838平方メートルと直前の渋谷時代の4倍に増やし勝負に出た。

https://www.nikkei.com/content/pic/20180207/96958A9F889DE0E4E7E1E4E1EBE2E2E7E2E0E0E2E3EA8AE3E3E2E2E2-DSXMZO2653640005022018X11001-PN1-2.jpg

 トレタは中小零細が多い飲食店の業務効率化ニーズを取り込み成長中。監査法人トーマツが毎年発表する技術系スタートアップの売上高成長率ランキング「日本テクノロジーFast50」(2017年版)で2位だった。過去3年で13.4倍も成長し、従業員も約100人に達した。

 同ランキングで成長率13.5倍と僅差でトレタを上回り、1位となったのも五反田組。個人のスキルをネットで売買するココナラだ。

 同社は渋谷で創業し五反田、渋谷と引っ越しを繰り返し、17年1月に五反田に戻った。南章行社長(42)は「五反田は渋谷に希少なワンフロア100坪のビルが残り、従業員がふらりといく安い飲み屋も多い」と話す。

 五反田といえば、風俗店やラブホテルが建ち並ぶわい雑なイメージがつきまとう。渋谷や六本木と比べ、お世辞にもおしゃれな街とは言えない。

 そんな五反田だからこそ、「渋谷=起業家の集まる街」という既成概念に背を向ける新興勢力にはむしろ魅力的だ。

 「スタートアップは新しい概念を打ち立てていく存在。出来上がった世界観に乗っかっていくのはピンとこない」。受発注見積もりサイトのユニラボの栗山規夫社長(37)は優等生的な渋谷や六本木に“挑戦状”をたたきつける。

 17年6月、下北沢からやってきたネット広告のZEALS(ジールズ)の清水正大社長(26)も「渋谷、六本木は文化ができあがっている」と感じ、五反田を選んだ。

 こうした反骨精神の強い起業家たちが集まるのが五反田の一面だ。五反田本社で唯一といっていい全国区の老舗企業、学研ホールディングスは「我々にとっても五反田のイメージアップになる」と歓迎する。

■ブランドイメージより実利

 五反田はトレタ中村社長(パナソニック)、ココナラ南社長(住友銀行)など大企業出身の30〜40代の起業家が集まるのも特徴だ。街のブランドよりも、交通の便がよく社員が通勤しやすい「実利」を優先しているからかも知れない。

 東海道新幹線の品川駅まで2駅で、羽田空港にも出やすい。五反田駅に乗り入れる東急池上線と都営浅草線の沿線は、居住地としてお得な物件も多い。「徒歩圏の不動前駅や大崎駅を使えば、神奈川・埼玉方面から通勤も可能」(南社長)で社員の満足度も高い。

 五反田には技術系スタートアップも集まる。典型がクラウド型カメラを手がけるセーフィー。創業メンバーはソニーグループ出身者がそろう。

 佐渡島隆平社長(38)は「物件を探す時間がなく土地勘があった五反田を選んだ」と14年の創業時を振り返る。その後も愛着のある五反田で移転と増床を繰り返す。かつて近くにあった「ソニー村」の名残がスタートアップに受け継がれる。

 ただ、近年は卒業組も増えてきた。五反田で育ち、新規株式公開(IPO)したオイシックスドット大地、ガイアックスなどだ。勢いのある未上場組の卒業も続く。1月にファッション関連のヴァシリーがスタートトゥデイの傘下入りに合わせて表参道に移転。遺伝子検査のジーンクエストが2月中旬、スマートロックのフォトシンスが3月に街を出て行く。

 フォトシンスの河瀬航大社長(29)は「いつか戻りたい」と五反田への思い入れは人一倍。14年の起業前も含め、計7年にわたり「職住が近く、満員電車に乗らなくていい」五反田で働き続けた。

以下全文はソース先でお読み下さい

2018/2/7 6:30
日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO26536390V00C18A2X11000/