安倍晋三首相は日銀の黒田東彦総裁に関し、「手腕を信頼している」と繰り返し述べてきた。市場の予想を超える異次元の金融緩和政策で、日本経済を浮揚させた黒田総裁の功績への評価の表れだ。しかし肝心の物価上昇率は目標の2%には遠く、金融緩和で積み重なった巨額の保有資産は将来的な出口戦略を難しくさせるとの声もある。

「戦力の逐次投入をせず、必要な政策を全て講じた」。黒田総裁は就任後初めて臨んだ平成25年4月4日の金融政策決定会合で、日銀が資金供給を2年で倍増させる“異次元”の緩和政策を打ち出した。

 出足は順調だった。異次元緩和は円安・株高を呼び込み物価上昇率も1・5%に達した。しかし26年4月に消費税が8%に増税されると消費は低迷。追い打ちをかけるように原油価格が下がり、中国など新興国経済の先行き不透明感から世界経済の成長が鈍った。

 日銀は10月には国債購入量を年50兆円から80兆円に増やすなど追加緩和を行ったが、目立った効果は見られず。このため28年1月に決めたのが「マイナス金利政策」だった。金融機関が日銀に預けたお金の一部に0・1%の金利を課す政策で、企業や個人への貸し出しを促すものだ。さらに9月に総括的な検証を行い、マイナス金利を維持しつつ、10年物国債の利回りを0%程度に誘導するなどの新たな枠組みを導入した。

 大胆な金融緩和の効果で足元の為替相場は1ドル=95円台から109円前後まで円安が進み、日経平均株価も1万2468円から2万1382円に上昇。企業収益は過去最高を更新している。しかし肝心の物価上昇率は1%にも届かず、日銀は計6回も目標の達成時期を先延ばしにしてきた。

 一方、世界経済の好調さや超低金利による金融機関の収益悪化を受け、大規模金融緩和を手じまいする必要性も指摘されている。しかし日銀は国債買い取りなどの緩和策を続ける中で、市場に出回る国債の約4割を保有するまでになっており、安易な引き締めは市場の混乱を招く恐れもある。

 第一生命経済研究所の藤代宏一主任エコノミストも、「デフレ脱却にはこの方法しかなかった」と黒田総裁の手腕を評価。一方で、「金融政策は手じまいの方が難しい」とも話している。(蕎麦谷里志)

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